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IWC historyIWCパイロット・ウォッチのすべて 02

1940年誕生の「ビッグ・パイロット・ウォッチ・キャリバー52 T.S.C.」(Ref.IW431)

1940年誕生の「ビッグ・パイロット・ウォッチ・キャリバー52 T.S.C.」(Ref.IW431)。ケース径55.0mmという懐中時計並みの巨大腕時計はIWCのパイロット・ウォッチでは史上最大。誤読不可能なほどの大きさは“空のマリンクロノメーター”を目指した結果。秒針停止機能装備のため、より正確な時刻合わせが可能になった。


Part.2 バトル・オブ・ブリテンから英国防空体制、
そして救国戦闘機スピットファイア

 永世中立国という立場ゆえに、時計に限らずスイスは産業・金融等であらゆる国との交渉を行なってきた歴史がある。IWCも英国やドイツ等に時計を納入したが、ここではまず1930年代末から1940年代初頭当時の、IWCにとって重要な関わりを持つ出来事を顧みたい。


 1939年9月1日にポーランドへ侵攻したドイツ軍は、翌年5月にオランダとベルギーを席巻した後、同月17日以降北フランスに攻め入る。その直後の24日から6月4日にかけて、英国は時の首相ウィンストン・チャーチルの命令下、ドーバー海峡を挟む北フランスのダンケルクから12万3095人のフランス軍を含む31万6663人の将兵を脱出させるダイナモ作戦を決行。これがいわゆる「ダンケルクの戦い」である。そしてこの直後に始まったのが、ドーバー海峡上空で英国王立空軍(RAF)とドイツ国防軍空軍(以下、ドイツ空軍とも表記)間で戦われた航空戦「バトル・オブ・ブリテン」だ(1940年7月10日~同年10月31日)。


 戦闘開始時の航空戦力はドイツ空軍2000機以上に対し英国王立空軍の保有戦力は戦闘機620機、そのほか84機の計704機。おおよそ3対1の比較差でRAFは劣勢だった。英国王立空軍公式ホームページによれば、当時のRAFの対ドイツ空軍迎撃体制は、(1)ドイツ空軍の航空機が検出されてから英国機の目標到達までの必要時間=20分。(2)RAF戦闘機をスクランブル発進して迎撃までに要した時間=16分。(3)RAFがドイツ空軍の空襲に対応する方法を決定しなければならなかった時間=4分、と書かれている。


 ドイツ空軍の検出から迎撃対応策の決定を含め、最適な空軍基地への連絡、さらに待機搭乗員のスクランブルで戦闘空域に達するまでの時間は上記のとおり。いくら自国領域内の防衛とはいえ驚くべき短時間だ。この迅速な迎撃体制を可能にしたのが英国のレーダー網である。当時、英国はすでに近代的なレーダー網を活用した、世界最高峰の統合防空ネットワーク・システム=“ダウディング・システム”を構築していた。そしてこの戦いで勇名を馳せたのが、世界の戦闘機の歴史において名機とされる英国スーパーマリン社(親会社はヴィッカーズ・アームストロング社)開発のRAFの主要戦闘機“スピットファイア”である。設計者はレジナルド・ジョセフ(R.J.)・ミッチェル。その試作機の初飛行は奇しくも前述のIWC初のパイロット・ウォッチ「スペシャル・パイロット・ウォッチ」(Ref.IW436)発表と同年の1936年。IWCはこの歴史上の名機に敬意を表し、現在のコレクションにその名を残している。

  • 英国の航空技術者であり、スピットファイア主任設計士のレジナルド・ジョセフ・(RJ)ミッチェル(1895-1937)
  • 英国の航空技術者であり、スピットファイア主任設計士のレジナルド・ジョセフ・(RJ)ミッチェル(1895-1937)。1917年にスーパーマリン社に入社、1920年から1936年の間に24種類もの航空機の設計を行う。1931年に大英帝国勲章授与。1937年初頭に癌の再発により一線を退く。スピットファイアの量産第1号機の完成前、同年6月に死去。以降の仕事は同僚のジョセフ・スミスに引き継がれ、数々の改良機が設計された。


 話がやや脇道に外れたが、RAFの歴史はその後のIWCの時計製造において重要なターニング・ポイントとなるので書き留めた。さて、前述の「スペシャル・パイロット・ウォッチ」(Ref.IW436)には秒針停止機構が装備されていなかった。そこで1940年に登場したのが……。


  • 「ビッグ・パイロット・ウォッチ・キャリバー52 T.S.C.」(Ref.IW431)
  • 「ビッグ・パイロット・ウォッチ・キャリバー52 T.S.C.」(Ref.IW431)。1940年誕生。1935年建軍(再軍備)のドイツ国防軍空軍から「誤読不可能なほど巨大な直径のプロフェッショナル用パイロット・ウォッチ」を依頼され、IWC史上でも最大ケース径となる55.0mmの時計が誕生した。よってドイツの「B-Uhr」の歴史ともかかわりがある時計。12時位置の三角型マークはパイロット・ウォッチを意味する定番のデザインとなる。2002年の「ビッグ・パイロット・ ウォッチ」(Ref.IW5002)、さらに2021年の「ビッグ・パイロット・ウォッチ 43」(Ref.IW329301)のオリジン。


1940年「ビッグ・パイロット・ウォッチ・キャリバー52 T.S.C.」(Ref.IW431)登場

 バトル・オブ・ブリテンの年、1940年にIWCは秒針停止機構装備の「ビッグ・パイロット・ウォッチ・キャリバー52 T.S.C.」(Ref.IW431)を発表する。これは飛行監視要員用時計に求められる厳格な要件に合わせて開発された。第二次世界大戦勃発当初、1935年の再軍備宣言で建軍されたドイツ国防軍空軍(the German Luftwaffe)は、IWCに誤読不可能なほど巨大な直径のプロフェッショナル用パイロット・ウォッチの開発を委任している。当モデルは当時のドイツ国防軍空軍向けパイロット・ウォッチ「B-Uhr」の歴史を汲むデザインだ。また当モデルは英国王立空軍(RAF)にも提供された。


「ビッグ・パイロット・ウォッチ・キャリバー52 T.S.C.」(Ref.IW431)はケース径55.0 mm、厚さ16.5 mm、重さ183gと今日までIWCが手掛けた中では最大級の腕時計である。12時位置の両側にドット付き三角型マークを装備。このマークは1936年の「スペシャル・パイロット・ウォッチ(Ref.IW436)」に備えられた回転ベゼル上の矢尻型ゼロマーキングを踏襲したものと思われるが、この12時の三角マークがパイロット・ウォッチのスタイルを示す要素になる(なお、1948年の「マーク11」では両サイドのドットは付けられていない)。マット仕上げのステンレススティールケース、掴みやすい逆円錐型の大型リューズ、視認性の高い発光インデックスと時分針、そして飛行服の袖上から着用可能な長い革ストラップを備えていた。さらにこのモデルにはムーブメント上部とスティール製の裏蓋底部にダストカバーが装備された。


 搭載ムーブメントはキャリバー52 T.S.C.(直径43.15mm、厚さ7.5mm、19リーニュ。註:文献によっては“H/52”という表記も見られる)。“S.C.”という略語はフランス語のseconde central(英語のcentral second)の意味。IWCのムーブメント台帳にはシャフハウゼンの工場で製造されたキャリバー52 S.C.の試験品(検体)数が記されている。最初に製造されたキャリバーは1940年、シリアルナンバーは「1013801」だ(以上『IWC PILOT’S WATCHES -FLYING LEGENDS SINCE 1936-』より抜粋・要約)。



 この「ビッグ・パイロット・ウォッチ・キャリバー52 T.S.C.」(Ref.IW431)の基本デザインは、2002年の「ビッグ・パイロット・ ウォッチ」(Ref.IW5002)のインスピレーションの源となり、2012年発表の「ビッグ・パイロット・ウォッチ」(Ref.IW5009)、さらに2021年の「ビッグ・パイロット・ウォッチ 43」(Ref.IW329301)へと引き継がれることになる。


 さて1944年、1898年生まれのアルバート・ペラトンがIWC技術責任者に就任。彼が技術部門の中核を担う立場になったことで、IWCは極めて重要な時期に入る。



1945年 英国陸軍用に開発された初代「W.W.W.」=「マーク X」

 1945年、英国王立陸軍用に開発された初代「W.W.W.」時計、「WWW WATCH WRIST WATERPROOF FOR THE BRITISH ARMY」=「マーク X(註:10)」が登場する。“W.W.W.”は“Watch,Wrist,Waterproof”の頭文字で、これは裏蓋に刻印されダイアル12時下には“ブロードアロー”(17世紀末頃から英国軍用品に用いられた矢印型のマーク。英国官有物であることを示す)が記された。この「マーク X」のムーブメントは、1936年の「スペシャル・パイロット・ウォッチ」(Ref.IW436)に搭載されたキャリバー83(直径26.5mm、厚さ4.1mmの12リーニュ、毎時18,000振動数)である。


『IWC PILOT’S WATCHES -FLYING LEGENDS SINCE 1936-』によれば、IWCは英国陸軍にWWWモデルを提供した12社のひとつで、英国陸軍用に合計約6000個の時計が製造、1945年5月から6月にかけて供給された。これら6000個の特別モデル(ケースには「1,131,001」から「1,137,000」までの番号付けが成された)は、1945年にシャフハウゼンで組み立てられた。そのケースバックにはそれぞれ個体番号(「12,021」から「18,021」)と、“軍用”を意味する“M”の文字が刻印されている。ブラックダイアルにスモールセコンド、時を示す発光性のアラビア数字、そしてミニッツサークルが設けられていた。ショックアブソーバーはすでに開発されていたが、当モデルはこの機能を搭載していない。その理由は完全に制御することが不可能な精度に対するわずかな影響があったからだ(以上『IWC PILOT’S WATCHES -FLYING LEGENDS SINCE 1936-』より抜粋・要約)。


「マーク X」発表の翌1946年、アルバート・ペラトン設計による初のムーブメント、時計史において伝説の名機となったセンターセコンド装備の「キャリバー89」が登場する。




協力:IWC / Special thanks to:IWC



  • 構成・文 / Composition & Text

    田中 克幸 / Katsuyuki Tanaka
    Gressive編集顧問。1960年愛知県名古屋市生まれ。大学卒業後、徳間書店に就職。文芸部を経て1988年「グッズプレス」創刊に携わり、後に編集長に就任。この間、1993年に同社で「世界の本格腕時計大全(後の『TIME SCENE』)を創刊し、2009年まで編集長を務める。同年より「Gressive」に参加。1994年よりスイスを中心としたヨーロッパ各国を取材、現在も継続中。

  • 写真 / Photos

    堀内 僚太郎 / Ryotaro Horiuchi
    フォトグラファー。1969年、東京都生まれ。1997年に独立。広告、ファッション、CDジャケットやポートレイト等で活動。2006年からスイス時計フェアの撮影を続け、2009年からGressiveに参加。2018年にH2Fotoを立ち上げ写真講師としても活動。

  • 写真 / Photos

    江藤 義典 / Yoshinori Eto
    フォトグラファー。1981年、宮崎県生まれ。2001年に上京。2006年、知人の紹介でカメラマンの個人スタジオのアシスタントに。スタジオ勤務を通し写真撮影とデジタル・フォト加工技術を習得。2013年に独立し、自らのスタジオを開設。Gressiveをはじめ、メンズ誌、モノ情報誌、広告等で活動。スイス時計フェアは2015年から撮影を継続。

INFORMATION

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〒102-0083 東京都千代田区麹町1-4
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