腕時計の普及に大きな役割を果たしたアール・デコ様式

地球の重力から解き放たれたかのような浮遊感溢れる「ヴァンガード グラビティ スケルトン」では、主ゼンマイや輪列機構、そして重力の影響を分散させて精度を高めるトゥールビヨン装置まで、時計を構成するすべての要素が、トラス構造の最小限のブリッジによって支えられている。さらにこのモデルでは、ケース全体にダイヤモンドをセッティングすることで、この上ないゴージャズ感を醸し出している。
ヴァンガード グラビティ スケルトン / Ref:V45TGRAVITYCSSQTD 5NNR、ケースサイズ:縦53.7mm×横44.0mm、ケース素材:18KPG×ダイヤモンド、防水性:日常生活防水、ストラップ:クロコダイル×ラバー、ムーブメント:手巻き、価格:24,250,000円 (税抜)

  腕時計の発生と発達。そこにはふたつの方向性があった。

  ひとつはポケットから取り出さなくても、腕を見るだけですぐに時刻を確認できるという実用品としての優位性。その利点が最大に発揮され、腕時計の普及に大きな役割を果たしたのが1914~18年の第一次世界大戦であり、兵士用として大量の腕時計が生産された。ほどなくして、その実用性が一般にも波及し、懐中時計から腕時計へと時代の流れを大きく変えたのである。

  そして、もうひとつの方向が装飾品としてのブレスレット・ウォッチ。懐中時計では文字通りポケットに隠れてしまい、装飾品として自己主張はできなかった。しかし、時計が小型化し腕に着用できるようになると、単に時刻を知る道具としてだけではなく、アクセサリーとしての側面がクローズアップされ、丸型だけでなく楕円形や八角形など、さまざまなフォルムの腕時計が生産され、男女問わず着用された。

  この過程で生み出され、現在も腕時計のスタンダードなフォルムとして定着しているのが、レクタンギュラー(長方形)やトノウ(樽型)である。一般に、このような幾何学的なスタイルの腕時計はアール・デコ(Art Deco)の影響によって誕生したといわれているが、実はアール・デコが世界を席巻する以前の1910年代後半から、これらの多彩なフォルムの腕時計が現れていた。

  そこでフランク ミュラーは彼の時計作りの過程において、モダンでありながら、実は20世紀初頭に始まる長い歴史を持つ幾何学的フォルムに着目し、樽型を基本として「トノウ カーベックス」を生み出し、長方形のレクタンギュラーを再解釈して「ロングアイランド」を作り上げた。これによって、時計史に埋もれがちだった個性的なスタイルに、フランク ミュラーが再び光を当てた、といっても良い

アール・デコを再構築して生まれた
フランク ミュラーの個性的なフォルム

かつてジェントルマンは夏ともなれば白麻のスーツに身を包み、涼しい顔で街を闊歩したものだった。そんな往年の紳士にピタリとイメージが重なるのが、この白いダイアルとストラップを持つ「ヴァンガード」。この白いダイアルと鮮やかな対比をなすのが、ゴールドに彩られたインデックスのエッジやダイアル外周のリング、フランク ミュラーのエンブレムである。
ヴァンガード / Ref:V45SCDTSTGJ AC5N、ケースサイズ:縦53.7mm×横44.0mm、ケース素材:SS×18KPG、防水性:日常生活防水、ストラップ:クロコダイル×ラバー、ムーブメント:自動巻き、価格:1,200,000円(税抜)

  このようにフランク ミュラーの時計作りにおいて、アール・デコの影響は決して見落とすことのできない大事な要素である。

  では、そもそもアール・デコとは何だろうか? それは19世紀末から20世紀初頭に流行したアール・ヌーヴォーのあと、1920年代から1930年代まで、ヨーロッパやアメリカを中心に大流行したスタイル(装飾様式)のことだ。

  植物を規範とする流麗で有機的なラインが特徴のアール・ヌーヴォーとは異なり、アール・デコは、理知的な幾何学フォルムをベースとする記号的表現や原色を用いたビビッドでコントラストの強い色遣いなどに特徴があった。

  その流行は1925年にパリで開催された「現代産業装飾芸術国際博覧会(Exposition des Arts Déoratifs et Industriels)」がきっかけだといわれているが、すでに紹介したように、実はこの博覧会開催以前から、時計界では幾何学的なフォルムを持つ腕時計が登場し、アール・デコ的なスタイルが主流となりつつあった。

  1980年代後半に独立時計師としてデビューしたフランク ミュラーが、まず最初に手がけたのは、伝統的な丸型のフォルムであり、そこにエンパイア・スタイル(帝政様式)と呼ばれる古典にならった様式を取り入れた押し出しの強いスタイルだった。

  その後、さまざまな試行錯誤の結果、彼が生み出したのが、前述したように1910~20年代に生まれた樽型のフォルムをベースにダイナミックな曲線美を導入した「トノウ カーベックス」であった。

  90年代初頭、この大胆なフォルムが話題となり、時計界に“トノウ・ブーム”を巻き起こしたのはご存じの通り。やがて、このフォルムに新たな解釈を加え、2014年に登場したのが「ヴァンガード」。現在ではこの「ヴァンガード」が、「トノウ カーベックス」や「ロングアイランド」などと並び、フランク ミュラーを代表するスタイルのひとつとなっている。

  ちなみに「ヴァンガード」とは「前衛」や「先駆者」といった意味。まさに時計の未来を先取りしたかのような、斬新かつ大胆なスタイルにふさわしいネーミングである。


あらゆるプロダクトに応用されたストリームライン 

取材・文:名畑政治 / Report&Text:Masaharu Nabata
写真:江藤義典 / Photo:Yoshinori Eto


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フランク ミュラー ウォッチランド東京
東京都中央区銀座5-11-14
TEL: 03-3549-1949