ボーム&メルシエ(BAUME & MERCIER)のセールスポイントは、1830年に創業されて以来、一度も途絶えることなく時計を作り続けてきたという実績。そして過去のデザインを投影させた美しいケースフォルムであろう。
しかしSIHHに集う時計ブランドのほとんどがマニュファクチュールであり、複雑機構や画期的な素材など、インパクトのあるニュースを発表することで耳目を集めている。つまり、汎用ムーブメントを使って誠実に時計を作っているボーム&メルシエは、(少なくともSIHH会場においては)どのブランドよりも地味なのだ。
ましてや高額ウォッチばかりが登場する中では、ミドルレンジの価格帯自体もインパクトに欠ける結果になっている。
秀作な時計が多い割に知名度が高くないのは、周囲の派手なブランドたちの影に隠れてしまっていたからではないだろうか。
だが2011年のボーム&メルシエは、個人的には主役級の存在感だったと思う。
まずブースの出来が素晴らしい。ニューヨーク郊外の高級保養地ハンプトンに建つビーチハウスをイメージしており、館内には砂浜や輝く太陽、光る海が作られている(ように見せる)。上質なリネンのカーテンから差し込む光も、人工的な冷たさがまったくない。
知人の邸宅に招かれたかのようなリラックス感が漂っているとなれば、発表される新作時計に期待しない訳にはいかないだろう。
ボーム&メルシエでは今年を“新しいショーの始まり”と位置づけ、ブランドビジュアルからロゴマーク、そしてコンセプトまで変更してきた。イメージしたのは1920年代のレジャーの雰囲気とシーサイドリビングという世界観。新しくなった「ケープランド」は、スポーティなクロノグラフの中に上品さを内包したデザインを持っている。
2011年のボーム&メルシエには大いに期待してよいだろう。