GRAND PRIX D'HORLOGERIE DE GENÈVE 2024GPHG 2024特別番外編 2024「GPHG」受賞 - 2025「9号」発表 03
参考になったラス・ミュージアムでの作品展示

「2024年のGPHGで、ノミネートモデルも含めて注目した作品は?」と片山次朗氏に尋ねたところ、彼が二番目に挙げたモデルがヴァン クリーフ&アーペル(VC&A)の「レディ アーペル ブリーズ デテ ウォッチ(Lady Arpels Brise D’Ete)」。当ブランドが最も得意とするポエティック コンプリケーションのひとつで、オンデマンドで風にそよぐ花と飛び回る蝶の動きを楽しませる。片山氏はVC&Aのポエティックな世界観に魅了されたようだ。レディス コンプリケーション ウォッチ賞受賞。VC&Aはこの年、同時にレディスウォッチ賞(「レディ ジュール ニュイ ウォッチ」)と、アーティスティック クラフトウォッチ賞(「レディ アーペル ジュール アンシャンテ ウォッチ」)も受賞し、2024年はトリプル受賞という快挙、受賞歴は計15回となった。18Kホワイトゴールドケース、ケース径38.00×厚さ13.15mm。自動巻き(Valfleurier)、28,800振動/時、パワーリザーブ36時間。30m防水。時・分、風に花がそよぐアニメーション機構。エナメルダイアル。※ヴァン クリーフ&アーペル公式サイト:https://www.vancleefarpels.com/jp/ja/home.html
レマン湖から西方へ流れるローヌ河の南、ジュネーブ大学の北北西側にその威容を見せるのが、1826年開館のラス・ミュージアム(Musée Rath)である(住所:Rue Charles-Galland 2 1206 Geneva)。芸術作品の収容・展示のために設計された、欧州でも最古の美術館のひとつに数えられる。現在は特別展を中心に一般公開されているが、そのひとつがGPHGと提携した特別展だ。11月のGPHG授賞式には併せてノミネート全作品の展示会を開催している。ラス・ミュージアムは今回、片山次朗氏が楽しみにしていた訪問先のひとつ。なにしろ、2024年のGPHGの全容を時計製作者の視点で総覧することができるからだ。
「(展示方式について尋ねると)ガラスケースなど無くて、実機を剥き出しで展示していて、(室内は)警備員が立っているだけでした。ピアジェやブルガリのモデルもそのままでしたよ。正直言って、僕はウォッチ&ワンダーズ(W&WG)へ行くよりも、ラス・ミュージアムで厳選されたノミネート60作品を観た方が勉強になりました。メディアの方も行かれた方が良いですよ」
片山氏が言われるように、時計と人との“距離感”を考えると整然と様式化されたウォッチ&ワンダーズよりも、スイスの夏の終わりにジュネーブで開催されるジュネーブ・ウォッチデイズ(GWD)や、GPHGの方が時計と製作者、会社代表に肉薄できると考えている。これは何もかもが整然と設られていたSIHHよりも、バーゼルのアカデミー(AHCI)のブースに居た方が興奮させられ、楽しかった1990年代の印象と重なってくる。
この展示会で特に片山氏の印象に残った作品を尋ねた。
「あります! 最初っから気になっていたのが、僕らは『健康サンダル』と呼んでいたコロキウムです(註:kollokiumの「Projekt 01」)。同じチャレンジウォッチ賞にノミネートされていました。文字盤がドットで立体的に構成された時計で、ケースのデザインなどはとてもプロダクトデザインしていましたね。自分の感覚からカッコ良いなと思いました」
片山氏の琴線に触れたコロキウムとは、2020年にマヌエル・エムシュ、バース・ヌスバウマー、アムル・シンディの3人によって設立されたクリエイティブ・グループ。機械式時計と建築、デザイン、現代アートとの融合を目指しており、エムシュ氏は同年にルイ・エラールのCEOにも就任し、アラン・シルべスタインやヴィアネイ・ハルター等とのコラボレーションで同ブランドを再注目させた人物だ。ノミネート作品の「Projekt 01」(プロジェクト 01)は、先端にスーパールミノバを手塗りした468個の円筒形マーカーをダイアルにセットした幻想時計。暗闇で見るとダイアルが息づく生き物か波立つ海面のようにうねった様相に見える。一方で片山氏は、新進気鋭な独立集団のみならず大メゾンの挑戦にも目を向ける。
「ヴァン クリーフ&アーペル(VC&A)の『レディ アーペル ブリーズ デテ ウォッチ(Lady Arprls Brise d'Été)』です。花が動くオートマタが面白いと思いました。大塚ローテックとは全然違うモノですが、ポエティックな世界観が凄いと思いました。ラス・ミュージアムで実機を見たことで印象が変わりましたね、VC&Aは。実物の作り込みが綺麗で、実際の印象は(画像・映像より)もっと良かったです。W&WGと違って、GPHGはすでに販売されている完成形をエントリーします。つまり時計のクオリティを、本当に触れそうなくらいの近さで見られるという展示方法は素晴らしいです」
片山氏の見立てとおり、VC&Aの「レディ アーペル ブリーズ デテ ウォッチ」は2024年GPHGのレディス・コンプリケーションウォッチ賞を受賞した。元々、VC&Aはポエティック コンプリケーションシリーズで複雑機構に詩的情感を込めた作品の実績がある。すでに2013年に「レディ アーペル バレリーヌ アンシャンテ ウォッチ(Lady Arpels Ballerine Enchantée)」でレディス・コンプリケーションウォッチ賞を受賞したVC&Aだが、思えばこの頃より超・複雑化に拍車がかかってきた感がある。
【付録:GPHG2024受賞リストとグレッシブ注目モデル】
ここで本企画の付録資料として、GPHG2024の受賞リストならびにグレッシブの注目モデルを以下に列記する(カッコ内は2024年を含めた受賞回数)。
●“金の針”賞(“Aiguille d’Or” Grand Prix):IWC「ポルトギーゼ・エターナル・カレンダー」(初受賞)
●メンズウォッチ賞:ヴティ・ライネン「KV20i Reversed」(計11回)
●メンズ コンプリケーション ウォッチ賞:ドゥ・べトゥーン「DB Kind Of Grande Complication」(計5回)
●レディスウォッチ賞:ヴァン クリーフ&アーペル「レディ ジュール ニュイ ウォッチ」(VC&Aは今回トリプル受賞。計15回)
●レディス コンプリケーション ウォッチ賞:ヴァン クリーフ&アーペル「レディ アーペル ブリーズ デテ ウォッチ」(VC&Aは今回トリプル受賞。計15回)
●タイムオンリー賞:H.モーザー「ストリームライナー・スモールセコンド ブルーエナメル」※新設賞(計5回)
●アイコニック ウォッチ賞:ピアジェ「ピアジェ ポロ 79」※新設賞(計15回)
●トゥールビヨン賞:ダニエル・ロート「トゥールビヨン スースクリプション」(初受賞)
●カレンダー&アストロノミー ウォッチ賞:ローラン・フェリエ「クラシック・ムーン」(計5回)
●MECHANICAL EXEPTION 賞:ボヴェ「Recital 28 Prowess 1」(計5回)
●クロノグラフ賞:マッセナ Lab「クロノグラフ モノプッシャー シルヴァン・ピノー x マッセナ Lab」(初受賞)
●スポーツウォッチ賞:Ming「37.09 ブルーフィン」(計2回)
●ジュエリーウォッチ賞:ショパール「ラグーナ ハイジュエリー シークレットウォッチ」(ショパールは今回ダブル受賞。計10回)
●アーティスティック クラフトウォッチ賞:ヴァンクリーフ&アーペル「レディ アーペル ジュール アンシャンテ ウォッチ」(VC&Aは今回トリプル受賞。計15回)
●“小さな針”賞(“Petite Aiguille” Watch Prize):クドケ「3 Salmon」(計2回)
●チャレンジウォッチ賞:大塚ローテック「6号」(初受賞)
●エコ・イノベーション賞:ショパール「L.U.C カリテ フルリエ」※新設賞(ショパールは今回ダブル受賞。計10回)
●オーダシティ賞(Audacity Prize):Berneron「Mirage Sienna」(初受賞)
●オロロジカル・レヴェレイション賞( “Horological Revelation” Prize):Remy Cools「Tourbillon Atelier」(初受賞)
●クロノメトリー賞:ベルンハルト・レデラー「3 Times Certified Observatory Chronometer」(計2回)
●審査員特別賞(Special Jury Prize):Jean-Pierre Hagmann
※註:初受賞はIWC、Berneron、Rémy Cools、ダニエル・ロート、Massena Lab、大塚ローテックの計6ブランド。IWCは初受賞がいきなり“金の針”賞という大快挙。ダブル受賞はショパール、トリプル受賞はヴァン クリーフ&アーペル。新設賞は「Eco-innovation Prize」「Iconic Watch Prize」「Time Only Watch Prize」の計3賞。なお「審査員特別賞」は1回限りの受賞なので受賞回数は記していない。

グレッシブ注目モデル(1):IWC「ポルトギーゼ・エターナル・カレンダー(Portugieser Eternal Calendar)」。GPHG初受賞が最高賞の“金の針”賞という快挙を達成。これは2001年のヴァシュロン・コンスタン(「Lady Kalla」)、2007年のリシャール・ミル(「RM 012」)、2011年のドゥ べトゥーン(「DB28」)、2018年のボヴェ(「リサイタル 22 グランドリサイタル」)に続く5番目になる。400年間に97回訪れる閏年のサイクルを機械的に記憶するセキュラーカレンダー機構を搭載。Ptケース、ケース径44.4×厚さ15.0mm。自動巻き、Cal.52640、28,800振動/時、パワーリザーブ168時間。50m防水。
※IWC公式サイト:https://www.iwc.com/jp-ja

グレッシブ注目モデル(2):マッセナ Lab「クロノグラフ モノプッシャー シルヴァン・ピノー x マッセナ Lab(Chronograph Monopoussoir Sylvain Pinaud x Massena Lab)」。クロノグラフ賞受賞。初受賞。2020年頃より注目されてきた時計動向として、時計愛好家クラブ、マイクロブランド、コンセプト(ウォッチ)メーカーがある。2018年にウィリアム・マッセナによって設立されたマッセナ Labは、ラベル・ノワールやバンフォード・ウォッチと同様のコンセプトメーカーとして最重要のスタジオのひとつだ。受賞作はスイス・サントクロアに工房を構える独立時計師シルヴァン・ピノーとの合作。ピノー氏が工房を構えた2018年発表のモノプッシャー・クロノグラフをベースとしたモデル。Tiケース、ケース径42×厚さ11mm。手巻き、18,000振動/時、パワーリザーブ45時間。30m防水。世界限定10本。スケルトン・ムーブメント。
※マッセナ Lab公式サイト:https://massenalab.com/

グレッシブ注目モデル(3):MING「37.09 ブルーフィン(37.09 Bluefin)」。スポーツウォッチ賞受賞。Mingは写真家、デザイナーのMing Thein氏を中心として、世界の6人の時計愛好家で2017年に結成されたクリエイティブ・グループ。シュワルツ・エティエンヌなどとのパートナーシップにより、オリジナリティ溢れる時計を発表している。「よりシンプルで薄く、かつ技術的なスペックも満足させるダイバーズ」を追求した結果、ケース径38.0×厚さ12.8mmの小ぶりでありながら防水性能600mを実現したニューエイジ・ダイバーズ。特に潜水時間の計測に不可欠な回転スケールを、極端とも言えるほど簡素化したデザインには驚く。SSケース、ケース径38.0×厚さ12.8mm。600m防水。自動巻き、28,800振動/時、パワーリザーブ50時間。
※MING公式サイト:https://www.ming.watch/
取材協力:片山次朗(大塚ローテック)、岡原圭佑(東京精密時計)
Special thanks to:Jiro Katayama(ŌTSUKA LŌTEC)、Keisuke Okahara(Precision Watch Tokyo)
©FONDATION DU GRAND PRIX D'HORLOGERIE DE GENÈVE





