https://www.gphg.org/horlogerie/en/gphg-2021)では授賞式の様子を映像を交えて確認することができる。また当ホームページでは第1回の2001年からのアーカイブも豊富なので、時計愛好家や関係者にとっては格好のテキストになるであろう。一方、本特集ではGPHG 2022の受賞時計ならびにブランド分析をできるだけ詳細に試みたい。" />
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GRAND PRIX D'HORLOGERIE DE GENÈVE 2022「ジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ 2022」全記録“金の針”賞+部門賞20賞…拡充するGPHGの傾向と分析 01

677名の会員と30名の審査委員で決定された2022年のベストモデル

“金の針”賞を授章する、MB&Fの創設者・オーナーのマキシミリアン・ブッサー氏

2022年11月10日の夜、ジュネーブのテアトル デュ レマン劇場での授賞式で“金の針(Aiguille d’Or)”グランプリ賞を受賞する、MB&Fの創設者・オーナーのマキシミリアン・ブッサー氏。今回の受賞は2010年の初受賞から数えて7回目となった。

 2022年11月10日にジュネーブ市のテアトル デュ レマン(Theatre du Leman)劇場にて授賞式が開催された、第22回「ジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ2022」(GRAND PRIX D’HORLOGERIE DE GENÈVE 2022=以下GPHG)。受賞結果のトピックを記す前に今回の審査員や受賞に至るスケジュールを簡単に記したい。

 2022年版のアカデミー会員数は677名(GPHG財団の2022年版ホームページより会員数をカウント)。GPHG発足の2001年頃は30人で編成されていた選考委員会は、現在では財団(FOUNDATION)に組織形態を発展させ、2021年度のアカデミー会員数は約500人だったがわずか1年で200名弱が増加した。そこから選出された今回の審査員は審査員長も含めて30名。審査員長は英国人の作家、歴史家、ジャーナリストのニック・フォークス氏。審査員の中で日本の時計愛好家にも知られているメンバーはブルガリCEOのジャン=クリストフ・ババン氏、ウルベルクのフェリックス・バウムガートナー氏、言わずと知れたジャン=クロード・ビバー氏。アジア勢では雑誌『REVOLUTION』創設者のコー・ウェイ氏やアワーグラス・グループのマネージング・ディレクター、マイケル・テイ氏等が揃う。


 エントリー資格を有する時計は2021年5月から2022年10月末までに商品化されたもので、2022年5月中旬から同年6月24日までにGPHGの専用デジタル・プラットフォームを介してエントリーする必要がある。なお、参加費は候補者の時計ひとつにつき700スイスフラン(約98,000円。1スイスフラン=140円で計算)だ。

 また11月10日の授賞式前後には候補時計の巡回展示会が催され、2022年は10月7日のインド・ニューデリーを皮切りに同月20日にはモロッコ・カサブランカで開催。今回珍しいのは受賞式後の12月1日に米国・ニューヨークで開かれたことだろう。近年、ニューヨークは時計展示会のホットスポットになっており、有名なイベントでは2022年10月22日と23日に開催された第7回「WatchTime® NEW YORK」だ。

 エントリー後、アカデミー会員による投票でひとつのカテゴリー(例:メンズウォッチ等)につき6つのノミネートモデルが選出され、さらに毎年構成が変わる30名の審査員による2回目の投票で受賞モデルが決定する(この投票は公証人立ち会いの元、ジュネーブの某所にて秘密裏に行われる)。実際はもっと複雑な仕組みだが要約するとこのような手順で進行する。


 さて、今回の特徴を以下に記すと……、


 2022年の賞は、その年の最高賞である“金の針(Aiguille d’Or)”グランプリ賞の他に20の部門賞(人物あるいは組織に与えられる審査員特別賞を含む)で構成された。前年の2021年より部門賞がふたつ増え、また賞の内容の入れ替えもあり今回はクロノメトリー賞が2年ぶりに復活、またメカニカル・クロック賞が新設されたことが前回との違いだ。一方でYoung Student賞も新設の賞だが、公式プレスリリースの賞リストには掲載されていないので今回は上記リスト数にはカウントしていない。

 以上でもお分かりのとおりGPHGの組織の拡大化とエントリーならびに受賞ブランドの増加(常連ブランドの多さから見ると偏りも見られる)は今後の課題と思われるが、この課題については2021年の特集でスイス時計界のご意見番の感想も含めてすでに記しているので、ご興味のある方はご覧頂きたい(https://www.gressive.jp/special/selection/20220128-gphg)。


 では次にGPHG 2022のトピックを記す。

 今回の結果を総覧した結果、以下の5点+αの特徴が見出された。なお受賞モデルに関するスペック等の説明は後のページでまとめ、当ページと次ページはかなり私見的な考えで構成した。


(1)創設17年目にして「MB&F」が“金の針”グランプリ賞を受賞

 ハリー・ウィンストンが2001年より始めたオーパス・プロジェクト(年に1回、独立時計師およびグループによる極めてユニークな機械式時計の創作・製造・発表)。この中心的存在であったマキシミリアン・ブッサー氏が2005年に設立した時計会社がMB&F(Maximilian Busser and Friends)である。“マキシミリアン・ブッサーと友人たち”という名前から分かるように、ハリー・ウィンストン時代の経験と人脈を生かしたと思われる時計製造者とのコラボレーション・ウォッチを世に送り続けている。彼は自身の時計を“オロロジカルマシン”と呼び、その独創的で未来的なフォルムと内部構造は他社と際立った違いを見せる。第1作は2007年の「HM1」(HM=Horological Machine)。そして創立17年目にして、ついに「レガシー マシン シーケンシャル Evo(Legacy Machine Sequential Evo)」が“金の針(Aiguille d’Or)”グランプリ賞を受賞。2010年の第1回目の受賞から数えて7回目にしてのグランプリである。

 ジュネーブとスイスで私は何度か彼と顔を合わせてきたが、ブッサー氏は1950年代~1960年代のレトロフューチャー的なSFワールドが好みらしく、例えば1966年~1969年まで米国で放送された『スタートレック』(Star Trek)的世界観を大切にしているようである(私が1969年頃にTVで鑑賞した日本放映時のタイトルは『宇宙大作戦』)。要するに“センス・オブ・ワンダー”のハートを持つ“好き者”なのだが、ジュネーブの旧市街には時計のみならずSF的ガジェットを展示したアート・ギャラリー「M.A.D.GALLERY」も常設されている。ご興味のある方はぜひ(https://www.madgallery.net/geneva/en 要予約)。



(2)「グランドセイコー」がクロノメトリー賞受賞

 グランドセイコー(GS)としての初受賞は2014年の“小さな針”賞(受賞モデルは「グランドセイコー メカニカルハイビート36000 GMT」)、続く2回目は2021年のメンズウォッチ賞(受賞モデルは「エボリューション9 コレクション メカニカルハイビート36000 80 hours 『キャリバー9SA5』」)、そして3度目となる今回は2年ぶりに復活したクロノメトリー賞を「グランドセイコー Kodo(鼓動)」が受賞。この9年間で3回の受賞、しかも2021年、2022年の連続受賞は我が国の“GS”が世界で確固たるブランドを築いた証だ。またセイコー・ブランドでは、2006年の初受賞(「エレクトロニック・インク」でエレクトロニック・ウォッチ賞)に続き2010年(「Spacewalk, Commemorative Edition」でスポーツウォッチ賞)、2018年(「セイコー プロスペックス マリーンマスター プロフェッショナル 1968 メカニカルダイバーズ 復刻デザイン」で2度目のスポーツウォッチ賞)、2019年(「セイコー プロスペックス LXライン」でダイバーズウォッチ賞)、と4回受賞しているので、GSと合わせて計7回の受賞となる。つまり全22回開催のGPHGで約3回に1度の受賞はアジア勢の代表としても大快挙だ。また受賞全80ブランド中ではF.P.ジュルヌと今回“金の針(Aiguille d’Or)”グランプリ賞受賞のMB&Fと並び同率第13位の成績。これも素晴らしい。



(3)新進気鋭のジュネーブの独立系ブランド「アクリヴィア」大躍進

 1987年にコソボで生まれ、1998年にスイス・ジュネーブに移住。パテック フィリップでの実習生から本採用となるものの20歳で退職後、BNBコンセプト、F.P.ジュルヌで経験を積んだレジェップ・レジェピ氏が、2012年にジュネーブ旧市街に立ち上げた時計工房が「アクリヴィア」。レジェピ氏は21歳の時、所属するBNBコンセプトですでに15人の職人を指導するまでの責務を担っていたのだから、相当な才能の持ち主。創立6年目の2018年に「レジェップ・レジェピ クロノメトル コンテンポラン I」で受賞したメンズウォッチ賞が初受賞となり、続く今回は「レジェップ・レジェピ クロノメトル コンテンポラン II」で再び同賞を受賞する快挙を成し遂げた。日本では2022年より東京の「アワーグラス銀座店」が取り扱う。なお当メディアでは2022年に初来日したレジェピ氏を名畑編集長がインタビューしているので、彼の半生と才能を知る手掛かりになるであろう(https://www.gressive.jp/special/impression/20220704-createurs-akrivia/01)。