GRAND PRIX D'HORLOGERIE DE GENÈVE 2021「ジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ 2021」21年目のターニング・ポイントを迎えて顕在化したその功績と課題 04

名機エル・プリメロ誕生50周年を記念し2019年に発表された自動巻きムーブメント、Cal.エル・プリメロ 3600搭載モデル(当初は限定版「クロノマスター2」に採用)。エル・プリメロ 3600は機械式による従来以上の高精度・高密度な計測記録機能を追求したキャリバー。毎時3万6000振動数は維持しつつ、その表示機能をセンタークロノグラフ針が10秒で1回転することで1/10秒単位まで可能にした(セラミックベゼル上の1/10秒スケールに記録)。今回のGPHG受賞モデルは、1969年誕生のエル・プリメロ搭載初号機「A386」へのオマージュとも解釈できるデザイン。これが筋金入りの時計愛好家から入門者までの心を捉えたと言える。ただし9時位置のスモールセコンド以外のカウンター計は変更し、3時位置に60秒積算計(初代は30分積算計)、6時位置に60分積算計(初代は12時間積算計)を配置。高精度化に伴い表記もより細分化された。ゼニスは2004年「クロノマスター エル・プリメロ フルオープン」でメンズウォッチ賞を初受賞して以来、今回で8回目の受賞となる。

Ref.03.3100.3600/69.M3100
ケース径：41mm
ケース素材：ステンレススティール
ストラップ：ステンレススティール
防水性：10気圧(100m)
ムーブメント：自動巻き、Cal.エル・プリメロ 3600、毎時36,000振動、パワーリザーブ60時間以上、
仕様：時・分表示(中央)、スモールセコンド(9時)、60秒積算計(3時)、60分積算計(6時)、1/10秒計測・表示クロノグラフ、センタークロノグラフ針は10秒で1回転
価格：1,166,000円(税込)

ポリッシュされたステンレススティール製ベゼルの12カ所のインデックスに「LOUIS VUITTON」の12文字を当てはめた、ハイエンド・ダイバーズウォッチ。ダイビング経過時間の読み取りは回転式インナーベゼルと分針の針合わせで行う。まずダイバーのシルエットが描かれた1-2時のリューズでインナーベゼルを反時計周りで回転、12時の逆三角形のアワーマーカーを三角形の分針先端部に合わせ“X”が完成することでセット完了。両者共にライトブルーの配色で特に時間スケールの最初の15分間は同色であることから、背景のブラックから明確に浮かび上がり視認性も確保。このようなシンプルな発想でダイバーズの基本性能を表現するセンスは見事。GPHG21年間のスポーツウォッチ受賞史でも出色の存在である。ルイ・ヴィトンは今回が初受賞ながらいきなり「オーダシティ賞」とのダブル受賞となった。

Ref.QA121Z
ケース径：44.0mm
ケース厚：12.8mm
ケース素材：ステンレススティール(ブルーPVDコーティング)
ストラップ：ネイビーとライトブルーのラバーストラップ
防水性：100m
ムーブメント：自動巻き、Cal.ETA 2895、パワーリザーブ約50時間
仕様：時・分・秒表示
価格：949,300円(税込)

1998年からカンヌ映画祭の公式パートナーを務めているショパール。特にその年の最優秀作品に授与されるパルム・ドールのトロフィーが至高の存在だが、毎回、同映画祭のために創作されるハイジュエリー“レッド カーペット コレクション”も世界が注目とするところだ。2021年のGPHGジュエリーウォッチ賞の栄誉に輝いたのが、同年第74回カンヌ映画祭のためにデザインされた「フラワー パワー」。12個のピンクサファイアがセットされた同色のMOPダイアル等、エデンの園をイメージした壮麗な色彩を放つプレシャスストーンの世界が唯一無二の独創世界を紡ぎ出した。“サステナブル・ラグジュアリー”を早い段階から唱え、厳しい自己行動規範によって調達されたフェアマインド認証を受けたエシカルゴールドを使用。ショパールは2003年の初受賞(「Happy Spirit en or blanc et cadran noir」でPUBLIC DU MOYEN-ORIENT賞)以来、今回で8本目の受賞となる。その内5本がジュエリーウォッチ賞(2012年はJEWELLERY AND ARTISTIC CRAFTS WATCH PRIZE)だ。

Ref.104056-1001
ケース径：19.6mm
ケース素材：18Kフェアマインド認証ホワイトゴールド、ダイヤモンド、ピンクサファイア
ストラップ：18Kフェアマインド認証ホワイトゴールド、ダイヤモンド、ピンクサファイア
ムーブメント：クォーツ
仕様：時・分表示
限定：世界限定1本
価格：60,819,000円(参考価格)

SF愛好家のMB&F創設者マキシミリアン・ブッサ氏と、伝説の彫金師エディ・ジャケ氏とのコラボレーションが花開いたユニークピース。19世紀の仏のSF作家ジュール・ヴェルヌの『80日間世界一周』をダイアルで表現するが、ジャケ氏はオリジナルの出版本に掲載されたイラストや映画(同名作品は1956年製作の米映画)に基づいた世界を創造した。ダイアルを兼ねるムーブメントのメインプレートの厚さは1.15mmから0.35mm まで変化に富み、ジャケ氏はあらゆる技術を駆使しヴェルヌの世界を描いている。なお“LM”はMB&Fのコレクションのひとつである“LEGACY MACHINE(レガシーマシン)”、“SE”は当モデル搭載の“Split Escapement(分割式脱進機)”の意。2005年創立のMB&Fは2010年の初受賞(「HM No4 サンダーボルト」でデザインウォッチ賞受賞)以降、今回はメンズ・コンプリケーションウォッチ賞とのダブル受賞で計6つのタイトルを獲得した。

Ref.04.RL.W3
ケース径：44.5mm
ケース厚：18.2mm
ケース素材：18Kピンクゴールド
ストラップ：ブラウンレザー
防水性：30m
ムーブメント：手巻き、Cal.LM2、毎時18,000振動、パワーリザーブ約72時間
仕様：時・分表示、指針式カレンダー、パワーリザーブ計
価格：159,000CHF(スイスフラン。約19,716,000円)

日本の時計愛好家やメディアでも大きな話題となった「ブラックベイ セラミック」の“小さな針”賞の受賞は、誰でも納得のいく結果であろう。当コレクション初のブラックセラミック採用ケースであり、しかもこれまではオメガの独壇場であったMETAS(スイス連邦計量・認定局)認定のマスター クロノメーター取得モデル。「スイスメイド」「COSC認定クロノメーター」という前提条件に加え、温度変化での精度や200m(660ft)の防水機能、さらに70時間のパワーリザーブ等4つの厳格なテストの合格品。特に15,000ガウスの高耐磁性能は、現代の時計精度に重大な悪影響を及ぼし、アフターメインテナンスの喫緊の課題である磁場環境への解決法としては心強い機能。これはチューダーの歴史でもエポックな出来事である。

Ref.79210CNU
ケース径：41mm
ケース素材：マットブラックセラミック
ストラップ：レザーとラバーライニングによるハイブリッドストラップ
防水性：200m(660ft)
ムーブメント：自動巻き、Cal.MT5602-1U、パワーリザーブ70時間(METASによって認定済み)
仕様：時・分・秒表示、シースルーケースバック
価格：551,100円(税込)

今回GPHG初受賞となったベルンハルト・レーデラーは1958年ドイツ生まれの独立時計師。フォルツハイム時計学校で学び、AHCI(独立時計創作家協会。通称アカデミー)創立時(1985年)の最初のメンバーであり2000年に独自のブランド「blu」を設立、現在は2015年設立の「MHM(Manufacture de Haute Horlogerie et Micromecanique)」を運営する。受賞モデル「セントラル・インパルス・クロノメーター」は、彼の「マスター・オブ・エスケープメント」コレクションのひとつ。ふたつのオープンワーク・スモールセコンドを搭載し、手巻きのCal.9012はダブル・ギアトレインとダブル・ルモントワール(定力巻き上げ機構)を備える、ブザンソン天文台とCOSC認定のクロノメーターである。

Ref.CIC.G.121.60
ケース径：44.0mm
ケース厚：12.2mm
ケース素材：18Kホワイトゴールド
ストラップ：ブラックレザー
防水性：30m
ムーブメント：手巻き、Cal.9012、毎時21,600振動、パワーリザー38時間
仕様：時・分・秒表示、Special escapement Double 10-seconds remontoire
価格：137,850CHF(スイスフラン。約17,093,400円)

今回、GPHG初受賞がダブル受賞という快挙を成し遂げたルイ・ヴィトン。ダイバーズウォッチ賞と共にオーダシティ賞(audacity＝大胆な)を受賞した「タンブール カルペ・ディエム」は、機械式複雑機構と美術技法を見事に組み合わせた驚嘆すべきオートマタである。欧米ではラテン語の“メメント・モリ”(memento mori＝死を忘れるな。転じて生の喜びを意識せよ)の警句のモチーフとして芸術作品に用いられるスカル。蛇がデザインされた2時位置のプッシュボタンを押すとスカルの歯が開き、眉間を覆う蛇の頭が右側へ移動、そこにはアラビア数字のジャンピングアワーが出現。同時に7-9時位置の蛇の尾がレトログラード式ミニッツカウンター計を指針する仕組み。その上に設置されるのはガラス彫刻のアワーグラス(砂時計)デザインのパワーリザーブ計である。この驚くべきオートマタの美を担当するのはアニタ・ポルシェ女史とディック・スティーンマン氏。ポルシェ女史はエナメル加工と手描きペインティング(ダイアル、蛇、歯)、スティーンマン氏は手彫りエングレービング(ダイアル、蛇、スカル、歯、砂時計)を担当した。なお、スカルの口にはモデル名の「Carpe Diem(カルペ･ディエム)」が記され、これはラテン語の“今という時を大切に使え”という意味。

Ref.Q1EN0Y
ケース径：46.80mm
ケース厚：14.42mm
ケース素材：18Kピンクゴールド
ストラップ：ブラックアリゲーター
防水性：30m
ムーブメント：手巻き、Cal.LV525、毎時21,600振動、パワーリザーブ約100時間、48石
仕様：ジャンピングアワー、レトログラード式ミニッツ、オートマタ、パワーリザーブ
参考価格：56,200,000円(税込)

スイス出身のインダストリアルデザイナー、Andrea Furlan氏と中東出身で経営管理を学んだ時計コレクター兼アーティストのHamad AL Marri氏により、2020年頃にジュネーブで創設されたFurlan Marri。少年の頃よりアンティーク時計の世界に接してきたふたりが紡ぎ出した時計が、郷愁を誘うネオ・ヴィンテージとも呼べる「ミスター・グレイ Ref.1041-A」。ムーブメントは1980年代後半にスイス(ルクルトとピゲ)と日本(セイコー)で開発されたメカクォーツ・ムーブメント(クォーツベースに機械式モジュールを結合)の中、当モデルではセイコー製VK64クロノグラフキャリバーを採用。淡いグレーのダイアルやピストン型プッシュボタン等、1940～1950年代のヴィンテージピースを想起させる時計通好みの1本である。ブランド創立早々の2021年にGPHG初受賞とは、今後の活躍が期待出来る新星の登場である。

Ref.20201
ケース径：38.0mm
ケース厚：11.3mm
ケース素材：ステンレススティール
ストラップ：レザー
防水性：50m
ムーブメント：ハイブリッドメカクォーツ、Cal.Siko VK64、クロノグラフ、24時間表示計

Ahmed Seddiqi & Sonsによって設立された2015年を皮切りに、隔年に開催される「ドバイ・ウォッチウィーク」が今回の審査員特別賞を受賞。単なる新作展示会に止まらず、時計製造や時計に関する知識の共有といった教育プラットフォームも目的のひとつであり、様々なパネル・ディスカッションやセミナーがプログラムされているようだ。9,000人を超える訪問者を迎えた2019年に続く本年(2021年)は、11月24日～28日の5日間にわたって開催。オーデマ ピゲ、ブライトリング、ブルガリ、F.P.ジュルヌ、H.モーザー、ウブロ、タグ・ホイヤー、ロレックス等50近いブランドが参加した。スイス国外で開催される時計展示会では最大手の存在となりつつあり、その影響力に時計界が注目している(写真は「ドバイ・ウォッチウィーク」のDirector GeneralのHind Seddiqi女史)