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Gressive Premium次なるステップへの道は見えたか? 2021年のイベントと新作を総括する / 竹石祐三

『クロノマスター スポーツ』人気の背景に感じた
ゼニスの現代的な編集センス

 かつてのように、多くのブランドの新作を一堂に俯瞰して見られなくなったことも影響しているだろうか、2021年も昨年に続いてトレンドが掴みにくい年ではあった。むしろ、発表された数多くの新作を見て際立っていると感じたのは、ブランドの個性や強み。特にビッグネームのブランドほどその傾向は分かりやすく、オメガやウブロなどは、いずれも自社の強みを生かしながら、この苦境をものともしない屈強な新作を発表。優れた技術力やセンスに加え、ブランドの持つ圧倒的な底力をアピールしていたように思う。

 なかでも、ゼニスの『クロノマスター スポーツ』が発表直後からSNSで“バズり”まくっていたことは特に印象深い。しかも、当初はネガティブなコメントが目立っていたにも関わらず、いざ発売されると即座に品切れ状態になり、その後は数カ月にわたって、直営のブティックでさえも入荷待ちとなるほどの人気ぶりを見せた。『ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ 2021』の期間中、私はゼニスのCEOであるジュリアン・トルナーレ氏にインタビューする機会を得たのだが、この件に関して彼が「それなりに成功するだろうという確信はあったけれども、正直、ここまでとは考えていなかった」と興奮気味に話していたことを振り返ると、よほど想定外の人気だったのだろう。

 その『クロノマスター スポーツ』もまた、自社の強みが表れたモデル。エル・プリメロを搭載した初代モデル『A386』のアイコニックな意匠をベースにしながらも、数々のヒストリカルピースのディテールを取り込み、パッと見は非常にベーシックなスポーツクロノグラフなのだが、眺めるほどにその端正なデザインや丁寧な仕上げに感心させられる。つまり“じわる”時計なのだ。ブランドの個性や歴史を生かしつつも、卓越したセンスによってアイコニックなモデルをアップデートさせ、実に分かりやすいデザインに仕上げた『クロノマスター スポーツ』。2021年新作のなかで最も印象的だったのはもちろん、このモデルで発揮された編集力が、今後どのように活かされるのかもまた、楽しみなのである。


竹石祐三が選ぶ
2021年ベスト・ウォッチ



  • 文 / text

    竹石 祐三 / Yuzo Takeishi
    1973年、千葉県生まれ。1998年よりモノ情報誌編集部に在籍し、2011年から時計記事を担当。2017年に出版社を退社し、「Gressive」の記事制作に携わる。



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