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Gressive Premium次なるステップへの道は見えたか? 2021年のイベントと新作を総括する / 名畑政治

新型コロナを契機に
変容する時計界の勢力地図

2022年春の開催を目指していた「バーゼルワールド」だが、先ごろ、その中止が決定した

2022年春の開催を目指していた「バーゼルワールド」だが、先ごろ、その中止が決定した。公式ページには、その理由として「COVID状況の悪化とそれに伴う顧客の不確実性により、新たなターゲットセグメントの新たなコンセプトを立ち上げることは特に困難であるという事実」をあげているが、本当のところはどうなのだろうか?
www.baselworld.com

 2021年もまた、スイス取材に行けなかった。それどころか国内取材すらままならず、時計関係の発表会やイベントも数えるほど。おかげで毎月の交通費精算の手間が省けて楽だが、喜んでいる場合ではない。

 実際、新作紹介についてはリリースやウェブ発表、個別取材でフォローできるが、やはりスイス現地を訪れて現物を手に本社CEOや開発者に直に話を聞いたほうがリアルな感触を伝えることができるはず。だから、間接的な方法でモデルを紹介するのは、やはり制約を感じるのだ。ところが肝心のスイス本国でもリアルな時計見本市の方向性がハッキリ見えない。かつて『SIHH(ジュネーブ・サロン)』と呼ばれた『Watches and Wonders Geneva (ウォッチズ & ワンダーズ ジュネーブ)』は2022年の3月に予定通り行われるようだが、『BASEL WORLD(バーゼルワールド)』は2022年春の開催をキャンセルした。

 確かに最近のヨーロッパでの新型コロナ感染状況を見ると、リアル見本市の開催は躊躇せざるを得ないし、日本からの訪問もためらわれる。いずれにせよ状況が落ち着かない限り、我々がスイスの時計見本市を生で取材することは難しいだろう。

 その一方で、「GENEVA WATCH DAYS 2021(ジュネーブ ウォッチ デイズ 2021)」と銘打った新たなイベントが、2021年8月30日から9月3日に開催された。こちらは2022年の9月に開催を予定しており、この見本市の新興勢力が「バーゼルワールド」に取って代わるのか、あるいは拮抗するものとなるのかが注目される。

 だが新作を見渡すと、思った以上に良作が多い。まず私が注目したのがパテック フィリップの『カラトラバ 6119』。ケース径は39.0mm。新開発の手巻きムーブメントを搭載し、日付表示がないのも好みドンズバ。そもそも、この時代に手巻きムーブメントを新規に開発し、日付を搭載しないことに驚愕である。


多数のメーカーが参入し
市場を牽引するラグジュアリースポーツ

1957年に発売された初代『スピードマスター』は珍しいが、3億円以上の価格で落札されるとは関係者にとっても想定外

確かに1957年に発売された初代『スピードマスター』は珍しいが、3億円以上の価格で落札されるとは関係者にとっても想定外だったはず。ブラウンのダイアルは、ブラックが日に焼けて変色したもの。まだらに焼けることは多いが、ここまで均一に変化したものは珍しい。 www.omegawatches.jp/stories/speedmaster-sells-for-world-record-price

 また、相変わらずラグジュアリー・スポーツ(“ラグスポ”)が人気だが、注目度抜群なのがティソの『PRX(ピーアールエックス)』。まず4月にクォーツを発売して話題を沸騰させ、早くも9月に機械式自動巻きモデルを投入の早業。しかもクォーツが5万円台、機械式が8万円台という価格にびっくり。質感に手抜きはなく、トレンドのラグスポをお手軽に体験するならイチオシである。

 そのラグスポの流れは国産にも波及。典型がザ・シチズンの『メカニカル NC0200-90E』。久々に自社開発した機械式自動巻きムーブメントをモダンなスチール製ケースに搭載するが、この外装はかつてのシチズン製品の先進的なスピリットを継承したもの。これは1960~70年代の日本の時計がデザインで世界をリードしていた隠れた事実を示す端的な例だ。

 しかし、私にとって2021年最大の驚きは、11月にスイスで行われた『フィリップス・オークション・ハウス』で、1957年の『オメガ スピードマスター CK2915-1』が311万5,500スイスフラン(約3億8700万円)で落札されたこと。

 最近、あらゆるヴィンテージ・アイテムの価格が高騰しているが、それにしても3億円オーバーとは……。ついに行くところまで行ったとの感が強い。

 とはいえ、これは時計界にとって良いニュースかもしれず、市場の活性化にとっての、大きなひとつのマイルストーンだと思うのである。


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2021年ベスト・ウォッチ


  • 文 / text

    名畑 政治 / Masaharu Nabata
    1959年、東京生まれ。'80年代半ばからフリーライターとして活動開始。'90年代に入り、時計、カメラ、ファッションなどのジャンルで時計専門誌や男性誌で取材・執筆。'94年から毎年、スイス時計フェア取材を継続中。2009年からは時計専門ウェブマガジン「Gressive」の編集に携わり、2015年、編集長に就任。著書に「オメガ・ブック」、「セイコー・ブック」、「ブライトリング・ブック」(いずれも徳間書店刊)、「カルティエ時計物語」(共著 小学館刊)などがある。



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