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Watch Journey Vol.01 in Kobe  「私は日本の方の声で 時計づくりを続けられたのです」

「私は日本の方の声で 時計づくりを続けられたのです」

デュフォー:おかげで日本からは大きな反響があり、さらにその年、日本の時計雑誌からグランプリをいただき大評判になりました。つまり、日本の皆さんが興味を示してくれたことで、私は救われたのです。


上根:“救われた”とは?


デュフォー:実は当時、私はある友人と仕事をしていました。彼はジャガー・ルクルトを退職したロテリアさんという時計師。彼と私は若い頃、一緒に仕事をしたことがあり、「僕が会社を退職したら君の工房を手伝ってあげるよ」と言われていたんです。

  そこで「シンプリシティ」を作り始めた頃、その言葉を思い出し、「机を用意したから、いつでもどうぞ」と伝えたのです。

  すると彼はやってきて「朝だけ仕事をするよ」と手伝ってくれました。数日後、奥さんから連絡があり、「やっと主人に笑顔が戻ってきたわ」と感謝されました。

  こうして彼が「シンプリシティ」の試作品を組み立て、私と彼は、まるで30年前の工房に戻ったように楽しく仕事を始めたんです。

  ところが彼は、「シンプリシティ」を発表した年の6月、高速道路の事故で亡くなってしまったんです。

  それからというもの、私は工房に出かけても仕事が手につかず、毎日、クラシック音楽ばかり聴いていました。

  でも日本の皆さんからの声が毎日毎日、どんどん入ってくる。そこで私は「これで人生を終わってはいけない」と考え直し、彼の机を片付け、仕事に取りかかったのです。つまり日本の方々のおかげで、私は時計作りを続けることができたんです。


上根:そんな悲しい話があったんですね。それにしても、あの時の顧客の熱意は凄かったですね。なにしろ注文した方がまず代金の半額を預け、出来上がるまで何年でも延々、待ち続けられるんですから。普通なら、少しでも納品が遅れたらクレームが来ますし、キャンセルされてしまいますが、「シンプリシティ」を注文された方からは一切、催促もクレームもない。2年でも3年でも、ずっと待っていらっしゃる。

 そして、私が「お待たせしました。『シンプリシティ』が入荷しました」と連絡すると、翌日、ちゃんと残りの代金を持って受け取りに来られる。本当にビジネスとして、こんなにシンプルなことはありません。それは一種のカルチャーショックでした。

 つまり、注文された方は、デュフォーさんが大変な努力をされていることをわかっているんですね。その気遣いは半端じゃなかった。そういう思いが顧客にはあったんです。

 また、ある方は、13年前に家を建てた際、「シンプリシティ」を手に入れたんです。そして今年、また家を建て替えたところ、当店からの手紙で、「デュフォーさんが神戸に来られます。トークショーにいらっしゃいませんか?」

 つまり、その方の人生の節目に、再びデュフォーさんと会えることで感激され、とても期待していらっしゃる。

 こうなると、もはや「シンプリシティ」は単なる時計ではなく、それを持つ人の人生がシンクロする、とても大きな存在ですね。


デュフォー:でも、「シンプリシティ」の哲学がわからない人には、このエピソードの素晴らしさや、価値がわからないでしょうね。





取材・文:名畑政治 / Report & Text:Masaharu Nabata
写真:嶋田敦之、堀内僚太郎 / Photos:Shimada Atsuyuki、Ryotaro Horiuchi

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