50年代から70年代にかけて、名だたる時計ブランド、あるいはジュエリーブランドの時計デザインを手がけ、その斬新さで幾度もセンセーションを起こした高名なデザイナー、ジェラルド・ジェンタ氏。彼が1969年に発足した自身のブランド、ジェラルド・ジェンタ（Gérald Genta）は、彼の非凡なデザインセンスをフルに活かしたウォッチメイキングでカリスマ的な人気を博し、コンプリケーションウォッチの製造にも積極的に取り組んでいる。1998年にジェラルド・ジェンタがブルガリグループの傘下に入った後も、ブランドのアティテュードはなお健在。そればかりか、同ブランドが保持する複雑時計の高度な製造技術は、グループ全体にも大きな活力をもたらす存在となっている。
　ジェラルド・ジェンタの代表シリーズのひとつに、レトログラードや、ジャンピングアワー、トゥールビヨンなどの複雑機構を搭載した、ウォルト・ディズニーのキャラクターウォッチの数々がある。ともすれば子供っぽくなりそうなものだが、遊び心たっぷりな大人にこそ似合う、ファッショナブルかつゴージャスな時計に仕上げているのは、ジェラルド・ジェンタならではの見事なデザインセンスである。2009年は、フェイスにミッキー・マウスをあしらった「ミッキー・シンフォニー」が、PGとWG、それぞれ限定50本で登場。このほかのシリーズからは、ブロンズ素材を使用した「ジェフィカ」のニューカラーや、いかにもジェラルド・ジェンタらしい八角形ケースの「オクト」に仲間入りした、バイレトログラード、ミニッツリピーターなど、個性的な顔ぶれが色とりどりに揃った。

　ジェラルド・ジェンタといえば、ミッキーやドナルドを文字盤にあしらい、その腕（中にはゴルフクラブなどの場合も）が分針の役目を果たす「レトロファンタジー」などの、ディズニーキャラクターを採用した一連のシリーズがつとに有名である。2009年の新作コレクションからは、レトログラード式の分針が上下に反復し、あたかも文字盤上のミッキー・マウスが指揮棒を振っているかのように見える、茶目っ気たっぷりな「ミッキー・シンフォニー」が登場した。ダイヤルの9時位置にはジャンピングアワー、つまりデジタル式の時間表示窓が設けられており、可愛らしい外見からは意外なほど複雑な機構をもつモデルだ。また裏返すと、ゼンマイを巻き上げる回転錘までミッキーの顔になっているのもユニークなポイント。
　“8”の数字を表す「オクト」シリーズが誇る、ジオメトリックな八角形ケースのゴージャスな雰囲気と、キャラクターの可愛らしさ、そしてメカニックな機構。これら3つの要素が互いにしっかり主張し合いながらひとつになった、バランスの妙こそが魅力の時計だ。

文：越知絵里香　写真：板津亮

※表記は2009年6月現在のものになります。