その存在が無ければ、20世紀におけるスイス時計の技術的躍進ならびに発表された時計が、かなりの制約を受けたのではないかと思われる会社がある。デュボア・デプラ(Dubois Depraz)だ。20世紀初年の1901年にスイスはジュウ渓谷のル・リュ(Le Lieu。ジュウ湖北辺中央の小村)に創業した当社は、クロノグラフを始めとする複雑時計モジュールやムーブメントの開発を担う特殊工房として、独特の地位を築いた。特に創業者マルセル・デプラが1937年に完成を見た「キャリバー48」は、従来のコラムホイールを簡易廉価なカムホイールに換えることでクロノグラフ分野に革命をもたらし、その後1970年まで350万個以上が製造された。またブライトリング、ホイヤー、ビューレン-ハミルトンと共に開発し、1969年に発表された初の自動巻きクロノグラフ・ムーブメント「キャリバー11」において、クロノグラフ・モジュールとマイクロローターの使用を提案したのは、3代目ジェラルド・デプラ氏である。
このようにスイス時計製造史において、陰の存在でありながら強烈な影響力を持っていたデュボア・デプラは、プレスの取材に対して容易に門戸を開けなかった。それが転機となったのが当社の全面的なバックアップを元に2004年に創業し、翌2005年にバーゼルデビューを果たした時計会社ピエール ドゥ ロッシュ(以下PDR)である。なお社長はジェラルド氏の次男、ピエール氏が務める。現PDRの主要コレクションは「TNT」、「グランドクリフ(Grand Cliff)」、「スプリットロック(Split Rock)」、そしてレディスであり、中でも「スプリットロック」と「TNT」が当社の存在感を知らしめている。特にデュボア・デプラから供給されるエクスクルーシブ・ムーブメントの独創性は秀逸で、6時位置に同軸積算計を装備する「スプリットロック」や、主に「TNT」に搭載される機構だが6本の短秒針がリレー式に1周60秒を計時する「ロイヤルレトロ」機構など、小規模ながら刮目すべき開発能力を持つ時計会社として注目度は高い。
会社規模から毎年のように新作を発表することは控えており、本年の2012年は「TNT」のラバーベゼル採用モデルやチタン+ピンクゴールドケースの、いずれも限定版が発表された。