VOUTILAINEN独立時計師カリ・ヴティライネンの最新作に見る伝統的な時計製造と未来への架け橋 02
自身のタイムピースを発展させつつ
小規模工房の支援にも尽力

2011年発表の「ヴァントゥイット」に搭載されたのが、初の自社製ムーブメントCal.28。大型のテンワと2枚のガンギ車を特徴とするダイレクトインパルス脱進機を備えたことでエネルギー効率が向上。ブリッジに施されたコート・ド・ジュネーブ装飾や面取りなど、繊細かつ丁寧な仕上げも見どころだ。
ヴティライネン氏はWOSTEP入学後に一度、フィンランドに自身の工房を構えている。だが、パルミジャーニ氏のもとで仕事をするにあたって工房を閉め、さらに90年代後半にはWOSTEPで教鞭を執っていたこともあり、自分の時計づくりに時間を割けない期間が長く続いていた。独立時計師として本格的に活動をスタートさせたのは2002年のこと。“時計の谷”として知られる、スイスはヴァル・ド・トラヴェール地方のモティエに工房を構え、ユニークピースの製作やアンティーク複雑時計の修復を開始する。
当初はルクルトやバルジュー、プゾーのエボーシュを用いて時計を製作していたが、2011年には初の自社製造ムーブメントCal.28を搭載した「ヴァントゥイット」を発表。その後はヴァントゥイットを基幹モデルとしながら数々の傑作を生み出し、2024年にはブランド創設20周年の節目を迎えた。同年にはこれを記念した限定モデル「トゥールビヨン・20thアニバーサリー」を発表するとともに、「KV20i リバース」はGPHGのメンズ・ウォッチ部門でグランプリを獲得している。


トゥールビヨン・20thアニバーサリー
ヴティライネンの独立時計製造20周年を記念したトゥールビヨン搭載モデルで、Pt製ケース20本、WG製ケース20本、RG製ケース20本、SS製ケース1本が限定製作された。時分を表示するオフセンターのダイアルに加え、5時位置にスモールセコンド、8時位置にはパワーリザーブ表示をレイアウト。それぞれに異なるギヨシェ装飾を施し、クラシカルな雰囲気を強めている。写真は18KWGモデル。
ケース径:40mm
ケース厚:13mm
ケース素材:18KWG
防水性:3気圧
ムーブメント:手巻き、Cal.TBL22、28石、パワーリザーブ約72時間
仕様:※※
価格:※※円(税込)
「ヴァントゥイットのムーブメントをいつでも眺めたいというリクエストを受けて製作したのが、2019年の『28 TI』です。これは限定モデルだったのですが、ムーブメントのレイヤー構造を堪能できることから反響を呼んだうえに、この年のGPHGで受賞したことから箔がつき、次作を期待する声が高まりました。こうして誕生したのがKV20i リバースです」
特徴のひとつに挙げられるのが、ダイレクトインパルス脱進機を採用した自社製ムーブメントCal.KV20i。ヴァントゥイットに搭載されたCal.28をはじめ、ヴティライネンのタイムピースでは多くのモデルに採用されている機構だが、一般的なスイスレバー脱進機に比べるとエネルギー効率に優れるため、パワーリザーブを延伸できるなど、実用性が格段に向上する。このダイレクトインパルス脱進機はブレゲのナチュラル脱進機をアップデートさせたものだが、その製作は伝統に基づいており、中長期的に高く保証される時計でありたいという考えから現代的な素材は用いていないという。
「この機構に着目したのは1992年。パルミジャーニさんの工房で働いていたときです。トゥールビヨンを搭載したブレゲのポケットウォッチを修復した際にナチュラル脱進機を発見し、その精度の高さを実感しました。ブレゲのナチュラル脱進機を積んだトゥールビヨンだけが、修復後の稼動性が高かった──つまり、実務で得た感覚からこの機構を開発することにたどり着いたのです」


KV20i リバース
2024年にGPHGメンズ・ウォッチ部門でグランプリを獲得したモデルの新作。反転構造を特徴とするCal.KV20iの搭載はそのまま、新たにクッションケースを組み合わせ、フランジを鮮やかなミントカラーで彩ることで、モダンな印象に仕上げている。
ケース径:39mm
ケース厚:11.95mm
ケース素材:チタン
防水性:3気圧
ムーブメント:手巻き、Cal.KV20i、31石、パワーリザーブ約60時間
仕様:※※
価格:※※円(税込)
一方、ヴティライネンの時計で目を惹くのが、ムーブメントや外装に見られる繊細な仕上げだ。中でも、文字盤のギヨシェ装飾が印象的なヴァントゥイットの新作は、ケースサイズを37mmとするのみならず、ケース形状やラグの形状も変更。これはケースやリュウズにもギヨシェ彫りを施せるアンティークのマシンを入手したことに起因しており、今後は外装のさまざまな部分にギヨシェを施したモデルを製作していくという。


ヴァントゥイット
ヴティライネンを代表するモデルの2025年新作。ケースは37mmにサイズダウンし、ラグはストレートラグに変更。さらにケース側面とリュウズの頭部にギヨシェ装飾を施す新たなクリエイションが取り入れられた。ムーブメントは従来と同様にCal.28が搭載され、ケースバックからは繊細な仕上げも確認できる。
ケース径:37mm
ケース厚:11mm
ケース素材:18KWG
防水性:3気圧
ムーブメント:手巻き、Cal.28、21石、パワーリザーブ約65時間
仕様:※※
価格:※※円(税込)
「アンティークの手動旋盤を収集し、ギヨシェ装飾を請け負っていたジョルジュ・ブロドベックさんという技術者が引退を考え、30台以上ある機械とそれらをメンテナンスできる後継者を含め、工房ごと引き継いでくれるところを探していたのです。ちょうど同じタイミングで、ヌーシャテル州が所有していた時計学校の跡地が売りに出されていたので、州とブロドベックさんと私で協定を結び、場所とアトリエを獲得したのです。1896年から続く歴史的な建物を2年かけて改装し、アンティークの機械をそこに移して、2024年にギヨシェ装飾メーカーのブロドベック・ギロシャージュを設立しました」


1896年に創立した旧時計学校の校舎を改装し、2024年に設立されたブロドベック・ギロシャージュ。技術者であるジョルジュ・ブロドベック氏が所有していた30台以上のアンティーク手動旋盤を引き継ぎつつ、ヴティライネンのアトリエで使われていた旋盤を合わせ、約40台の機械が並ぶ。
ブロドベック・ギロシャージュで働くギヨシェ職人は6人。さらに、シャポー・ド・ナポレオンにあるヴティライネンの工房からも手動旋盤8台を移し、約40台のアンティーク機械を駆使しながらギヨシェ装飾の技術を守り続けている。
「ブロドベック・ギロシャージュを設立した狙いは、ひとつには自身の時計をより良くしていきたいからですが、同時に小規模な工房を支援していきたいという思いがあるのです」
INFORMATION

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株式会社 The Carat (ザ・キャラット)
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