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JUNGHANSマックス・ビル、オリンピック公式計時、電波時計…多面体的活動でドイツ時計の雄となったユンハンス 01

ユンハンスの高精度技術のマイルストーンとなった
1972年、ミュンヘン・オリンピック競技大会

1972年のミュンヘン・オリンピック競技大会公式計時50周年を記念して、2022年に発表された限定モデル「1972 コンペティション」

1972年のミュンヘン・オリンピック競技大会公式計時50周年を記念して、2022年に発表された限定モデル「1972 コンペティション」。1970年代の腕時計に特徴的なオーバルケースのカーブを描くようなシェイプ等、当時の技術では不可能だった成形を可能にしたアップデイトモデルだ。


「1861年に創業したユンハンスは、1903年の時点ですでに3000人の従業員を擁し、1日に9000個の時計を製造していました」


 とユンハンス有限合資会社、代表取締役マティアス・ストッツ氏は述べる。当時ドイツはプロイセン国王をドイツ皇帝とする帝政ドイツ時代で、ドイツの各連邦国家の急速な工業化(石炭、鉄~後に鋼鉄、化学薬品、鉄道)が進んだ時代。1913年には人口はすでに約6800万人にまでに増加していた(ウィキペディアより)。

 その工業化時代と歩調を合わせるように発展したユンハンスは、高精度時計の一般化(時計を一部の階級から広く一般人に広めること)と同時に、クロノメーター等の高精度時計の開発も進める。その発露のひとつが、スイス等の時計会社と同じようにスポーツ計時だ。この辺りはロンジンやオメガも同じ道程を歩んでいた。続けてストッツ氏は語る。


「スポーツ計時はユンハンス社の歴史においてマイルストーンのひとつです」


 その頂点が1972年に当時の西ドイツで開催されたミュンヘン・オリンピック競技大会(以降、ミュンヘン大会)である。

 その始まりは1932年にある、と公式資料では説明されている。ちょうど米国ロサンゼルス・オリンピック競技大会で、オメガが初めて公式計時を担当した年だ。


「発明家G.T.カービイの電子制御装置はまだ初期段階(※註:G.T.Kirbyと表記すると思われる。1923年9月の『JOURNAL OF THE American Institute of Electrical Engineers』誌には彼の名前が見られるので、これは想像だが彼はニコラ・テスラのような電気技師兼発明家だったのではないだろうか?)。1936年にはドイツ物理技術研究所とツァイス・イコンの共同開発による『ゴール時間カメラ』がレーンに設置されスターターピストルと接続されていた」(広報資料より)


 ちなみに、高速移動する対象の連続写真の撮影に成功したのは、19世紀の写真家エドワード・マイブリッジによる競走馬の撮影だ。彼が考案した方法は、馬の走路に沿って等間隔に12機のカメラを設置し繋がれたカメラのシャッターが下りるというもの。こうして高速移動する対象の記録撮影の歴史が始まった。

 1962年にユンハンスの時計はドイツ陸上競技連盟の電子式計時に採用されていた。さらに1965年にはシュトゥットガルトで開催されたヨーロッパ陸上選手権でユンハンスはクォーツをベースにした電子式計時を使用し、この技術は「クロノメトリー」という新しい概念で呼ばれた。1970年頃になると「クロノメトリー」システムは規模の大きいスポーツ大会でも頻繁に使用され始め、その一例としてドイツ・アルゴイ地方のプフロンテンで開かれたアルペンスキー大会が挙げられるが、当大会ではマイナス17℃でもこのシステムが機能することが実証された。


2021年10月3日発表の工房設立20周年記念モデル「ヘクトール(HEKTOR)」

ユンハンス有限合資会社
代表取締役 マティアス・ストッツ

1969年3月16日ドイツ・フライブルク生まれ。1993年~1994年はコレクション株式会社の時計製造、1995年~1996年はマスターウォッチメーカーをさらに追求したトレーニングを行い、1996年~1997年にはキニンガーのプロトタイピング長を務める。1998年からは精密工学を教えるファインテクニック学校で教育を担当している。2007年10月から2009年1月までユンハンス腕時計株式会社代表取締役を務め、2009年2月に「時計メーカー・ユンハンス有限合資会社」代表取締役に就任し現在に至る。経営と技術両面を熟知した人物で、2009年には「マン オブ ザ イヤー」に輝く。


独立部門「ミュンヘン72」プロジェクトチームの発足

 さて、このような“準備”を経てついに1972年のミュンヘン大会が開催された。


「ユンハンスはメルセデスのレース計時を担当したことがありますし、スポーツ計時に使用したストップウォッチは100分の1秒の計測も可能でした。ヨーロッパではF1レースやスキーのFISチャンピオンシップの公式計時の経験もあります。陸上競技についてはスターティングシステムを開発しましたが、その頂点が1972年のミュンヘン大会です」(ストッツ氏。以下同)


 ミュンヘン大会のために、ユンハンスでは社内に10人のスタッフを中心とした独立部門「ミュンヘン72」プロジェクトのスポーツ計時チームを発足させた。大会期間中は約70人の社員が各競技会場に送られ、そのリーダーは1960年ローマ・オリンピックの4×100mリレー金メダリスト、マルティン・ラウアーであった。


「当時(1970年前後)はゴール時での正確な計時は求められていましたが、スタート時ではそれほどではありませんでした。ゴール時では0.01秒の精度を実現していたものの、スタート時ではフライングや0.1秒の差が生じたりしてばらつきがあったのですね。そこでユンハンスは高い技術力でこの世界に切り込んでいったのです」


 その頃、競技者にスタートを知らせる合図はスターターピストルだった。これだけでは走者のスタート位置によって“音の不公平”が生まれる。


「スターターのピストル音がしたら、スターターピストルに近い位置にいる選手から順番に音が聞こえるという時間のロスが発生し、不公平な差がありました。そこでユンハンスが開発したのがスターティングブロックです。これには各々にスピーカーが設置されていたので、全選手はスターターピストルの発射音と同時にその音を聞くことができます。またスターターピストルの音だけで判断するのではなく、実際に選手が動く時の圧力も含めて、機械が正確に動作しているかも含めた計測を可能にしたのがユンハンスでした」


 この開発のため彼らはテストと研究を繰り返す。その結果、スターティングブロックでの選手の反応時間が0.12秒から0.25秒であることが判明。そこで競技主催者との意見調整を図り、反応時間の限界値を0.1秒とすることに決定された。このO.1秒がフライングの基準線となる。


「次にゴール地点での正確な計時も必要です。そこでゴール時に各選手とゴールラインを確実に捉える特殊フィルム内蔵カメラを開発しました。まず、スタートポイントでは(スミス&ウェッソン社のリボルバー式)スターターピストルからの発射ガス圧で電気接点が作動し、その信号が機械を通して各選手のスターティングブロックのスピーカーにつながり、全ランナーは同時に発射音を聞くことができます。また同時に各選手の動作(圧力)を感知して各選手がフライングせず正しいスタートを行ったのかも計測します。

 最後のゴール地点ではダブルライトバリアというデバイスが用意され、最初のゴールランナーのゴールの瞬間を記録しますが、ライトが2点あることで手や髪の毛ではなく、体がしっかりとラインを割る瞬間を捉えます。これらの結果は計測機械やTVシステムへと連結されました。会場の掲示ボードでも見ることができたのです」


大会後、オリンピック組織委員会会長に高く評価される

 このような高精度な計測を可能にしたのは、精度10-6の水晶振動子だ。ミュンヘン大会で使用された装置は、前述のスターティングブロックや電子式デジタルクロック、ゴール映像カメラ、ゴールラインのダブルライトバリアなどの複数のコンポーネントにより構成された複雑なシステムだった。また1/100秒単位まで正確な計測が可能な世界初のカラー写真によるゴール判定も実現した。このような開発の推進役を務めたのが、取締役社長のフリッツ・シュトルトフ博士と開発部長のフリードリヒ・アスムス博士。当時のユンハンスは技術畑の人物が経営の指揮を執っていた(なおストッツ氏も技術畑の人である。これはユンハンスの社風なのだろうか?)。


「これらすべての機械とシステムはユンハンスが開発したものです。1970年代の段階でこのレベルの技術を持つ時計会社は非常に少なく、オメガ、セイコー、そしてユンハンスぐらいでした」


 余談だが、大会直前のテストレースは赤いタータントラックのゴール前区間で行われ、ユンハンスの計時装置を使って測定された。このテスト走行は陸上競技者ではなくふたりのオリンピック・コンパニオンが、本大会のマスコット“ヴァルディ”の元となったダックスフンドを綱につなぎながら100mを走ったという。なお勝者はどちらか? これは今なお不明である。

 陸上競技だけではなくミュンヘン大会でユンハンスが直接的な計時を務めたのは、アウグスブルクのカヌー競技や北ドイツ・キールのフィヨルドで開催されたヨット競技なども挙げられる。またアーチェリーやサッカー競技では競技時間に関する間接的な測定を担当し、大会終了後には「とりわけ、技術がスムーズに機能したことは世界から高く評価され、11種目のスポーツで行った貴社の時間測定がこの高い評価につながりました」と組織委員会のヘルベルト・クンツェ委員長から評価された。技術がスポーツの判定に必要不可欠・絶対的要素になったことを証明した大会のひとつがミュンヘンだった。


  • 1972 コンペティション
  • 1972 Competition
    1972 コンペティション

    1972年のミュンヘン大会時に発表された記念モデル「ユンハンス・オリンピック」復刻版である、ミュンヘン・オリンピック競技大会50周年記念限定モデル「1972 コンペティション」。完全復刻というより当時の技術では成形不可能だったオーバルケースのカーブシェイプ等、現代技術でアップデイトされた最新バージョンである。

    Ref:27/4203.00
    ケース径:横45.5×縦41.0mm
    ケース厚:14.5mm
    ケース素材:ステンレススティール
    防水性:10気圧
    ストラップ:両サイドを2本のステンレススティール製スクリューで固定した円形の切り抜きとオレンジのライニングレザーのあるブラックレザー、ステンレススティール製バックル
    ムーブメント : 自動巻き、Cal.J880.5、48時間パワーリザーブ
    仕様:時・分・秒(スモールセコンド)・日付表示、ストップセコンド、30分積算計、サンレイブラシ仕上げのアンスラサイトダイアル、ステンレススチールケースバック(エディションモチーフ)、オレンジ色の積算計とタキメーター、環境に配慮したルミナスを使ったスケールミニッツトラック
    限定:1972本
    価格:442,200円(税込)


 ユンハンスではミュンヘン大会時でも記念モデル「ユンハンス・オリンピック」を発表したが、50年後の2022年には50周年記念限定モデルの「1972 コンペティション」を2タイプ発表している。またシュランベルクの本社・アトリエ「ユンハンス・テラスビルディング」内ミュージアムでは特別展「ミュンヘン‘72」も開催された。さらにスポーツ計時では2023年の「アルペンスキー FIS ワールドカップ 2022/23」(※FIS=Fédération Internationale de Ski et de Snowboard/国際スキー・スノーボード連盟)の公式計時を務め、その記念モデルとして「1972 コンペティション FIS エディション レモン」と「1972 クロノスコープ クォーツ エディション FIS レモン」の2モデルも発表された。このような歴史を経てユンハンスとスポーツ計時、特にヨーロッパでのウィンタースポーツ競技会とは現在でも密接な関係を築いている。

 では、次ページからはエポックな出来事を中心にユンハンスの歴史について解説したい。

  • 1972 コンペティション FIS エディション レモン
  • 1972 Competition FIS Edition Lemon
    1972 コンペティション FIS エディション レモン

    2023年2月21日から3月5日にかけてスロベニアのプラニツァ(PLANICA)で開催された第54回FISノルディックスキー世界選手権。当大会のオフィシャルタイミングパートナーを務めたユンハンスの記念限定モデルは、機械式とクォーツの2タイプが用意され、こちらは「1972 コンペティション」と同型ムーブメントのCal.J880.5を搭載した自動巻きクロノグラフ。世界限定150本。ダイアルとストラップのイエローカラーから“レモン”と命名されたが、ブラックとイエローのコンビネーションはブランドアンバサダーのカール・ガイガー選手(2023年大会ではスキージャンプ競技に出場)のFISCHER社製スキー板の色のコンビネーションでもある。

    Ref:27/4305.00
    ケース径:横45.5×縦41.0mm
    ケース厚:14.5mm
    ケース素材:ステンレススティール
    防水性:10気圧
    ストラップ:2本の留めネジ付き穴空きレモンイエロー・レザーストラップ(ブラックの裏革)、ステンレススティール製折りたたみ式バックル
    ムーブメント:自動巻き、Cal.J880.5、約48時間パワーリザーブ、クロノグラフ
    仕様:時・分・日付表示、クロノグラフ針、スモールセコンド(6時)、30分積算計(12時)
    限定:世界限定150本
    価格:396,000円(税込)

  • 1972 クロノスコープ クォーツ エディション FIS レモン
  • 1972 Chronoscope Quarz Edition FIS Lemon
    1972 クロノスコープ クォーツ エディション FIS レモン

    Ref:41/4369.00
    ケース径:43.3mm
    ケース厚:11.3mm
    ケース素材:ステンレススティール
    防水性:10気圧
    ストラップ:3つの円形カットアウトのレモンイエロー・レザーストラップ(ブラックの裏革付き)、クイックリリース、ステンレススティール製バックル、3つの円形カットアウトのブラックレザーストラップ(裏革付き)が付属
    ムーブメント:クォーツ、Cal.J645.83
    仕様:時・分・日付表示、1/5秒クロノグラフ針、24時間表示(3時)、60分積算計(9時)、スモールセコンド(6時)
    限定:世界限定150本
    価格:99,000円(税込)





協力:ユーロパッション / Thanks to:EURO PASSION




INFORMATION

ユンハンス(JUNGHANS)についてのお問合せは・・・

ユーロパッション株式会社
〒101-0042 東京都千代田区神田東松下町30
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