
各ブランドの新作モデルが一気に発表されるSIHHは、会社ごとに異なる戦略を確認できるよい機会だ。多作するブランドもあれば、複雑機構に傾倒するブランドもある中、ジュネーブを代表する名門「ヴァシュロン・コンスタンタン(VACHERON CONSTANTIN)」では、ここ数年「メティエ・ダール(Métiers d'Art)」と呼ばれる“職人技の芸術”に注目している。
ヴァシュロン・コンスタンタンでは、創業当時からメティエ・ダールに力を入れていた。芸術の域にまで達した丁寧なギョーシェ彫りや彫金、エナメル細密画などは、今ではドレスウォッチからハイ・コンプリケーションまで幅広く用いられており、ブランドのアイデンティティのひとつとなっている。
21世紀に入ると、時計の製作現場では急速に機械化が進んでいった。工程自体はとても効率的になったが、それは即ち、手技を尊ぶ伝統的な時計作りがどんどん失われていくことを意味する。それを黙って見ているわけにはいかないと考え、文化継承の意味も込めてメティエ・ダールに力を入れることにしたのだという。