腕時計にはふたつの進化がある。ひとつは精度や実用性を高めて「時を知る道具」としての価値を高めること。そしてもうひとつがビジュアル面にこだわり「アクセサリー」としての価値を高める方法。そのどちらも正解だが、日本メーカーは前者を得意とし、スイス勢は後者を得意としている。
ところが今年のシチズン(CITIZEN)は、やや趣が異なった。
まず、実用品としての腕時計の進化を牽引したのは「アテッサ」。チタンケースや電波受信機能、そしてダイレクトフライトという"使える機能・能力"を盛り込んでおり、ジャパンウォッチの代表選手となっている。
アテッサは2012年で誕生から25周年を迎えるが、その記念としてTOKYOファッションを代表するブランド「マスターマインド」とのコラボレーションを行うなど、積極果敢な戦略を展開しており、単なる"実用"には収まりたくないという情熱を感じさせる。
そしてバーゼルワールドの風物詩となったコンセプトウォッチも、もちろん登場。2012年は初めて女性デザイナーが担当しており「エコ・ドライブ ノヴァ」と「エコ・ドライブ ルナ」の2モデルが発表された。
今までのコンセプトウォッチは、あくまでも時計技術の進化を軸にしていた感があるが、今回は時刻表現の可能性を追求しており、特殊なLEDと光ファイバーで構成される文字盤上を流れる光は、まるで生き物のようだ。
スイスの時計メーカーたちが作っているコンセプトウォッチは、高振動を目指したり、クロノグラフ能力を高めたりと、どちらかといえば"時計進化"に力を注いでいるように思える。その点シチズンはエコ・ドライブという実用性は残しつつ、それ以外はすべて自由。つまりシチズンの方が遊んでいるのだ。
日本の時計にはロマンが少ないといわれてきたが、シチズンのコンセプトウォッチを見る限り、その印象は正しくないことがわかる。