18世紀の天才時計師、アブラアン‐ルイ・ブレゲの再来とまで言わしめたダニエル・ロート氏は、60年代に本格的に時計づくりに携わってから様々な名門ブランドで実績を重ね、とりわけ複雑時計の分野でめきめきと頭角を現していった。そして70年代初頭は、いったん休眠状態にあった、ブレゲ社を復興するプロジェクトに着手していたジュエラー、ショーメの要請により、アブラアン・ルイ・ブレゲの複雑時計を復刻することに尽力。結果、ダニエル・ロートは天才ブレゲの名前を冠したブランド再建の立役者となった。そして、ブレゲのトゥールビヨンが完成したのを最後に、自身のブランド、ダニエル・ロート（DANIEL ROTH）を立ち上げたのが1988年のこと。高度な技術を用いた機構と、クラシカルかつ独創的な意匠を特徴としたダニエル・ロートの時計哲学は、2000年にブランドがブルガリグループに加わってからも、脈々と継承されている。
　2009年、同社の新作陣における最大のニューストピックは、なんといっても10年ぶりにケースにSS素材を採用したスポーツウォッチ「アンデュレ」がデビューしたことだろう。まったく新しいコレクションながら、ケースには同社ではおなじみの「ダブルオーバル」の特殊なシェイプが面影を残し、ダニエル・ロートらしさが巧みに演出されているモデルだ。他の新作としては、「アシス」のシリーズから、5作目、6作目が登場。それぞれムーンフェイズ、永久カレンダーを搭載し、端麗な意匠とコンプリケーションの見事な融合が楽しめる。

　楕円と直線を組み合わせたような、独自の「ダブルオーバル」というケースシェイプは、もはやダニエル・ロートの代名詞と言ってもいいだろう。2009年は、お馴染みのこの形を大胆にアレンジした、スポーツモデル用の新しいケースデザイン「アンデュレ」がお目見えした。ベゼル部分にダブルオーバルの形を継承しながらも、リュウズガードを備えた力強いケース形状、そしてストラップと一体型のラグが、これまでになくたくましい印象を醸し出している。
　ファンクション面では、クロノグラフよりも簡易で、長時間の計測に適した、クロノスプリント機能を搭載。8時位置にプッシュボタンを備えており、インダイアルの中で経過した時間・分を同軸上で表示するシステムで、継続して12時間まで計測が可能になっているのだ。スポーツウォッチがもてはやされる時流に則りながらも、ダニエル・ロートらしいアレンジを加えたケースと、複雑機構の技術力を用いた捻り技が、他とはひと味もふた味も違う個性的なスポーツウォッチに仕上げていると言えるだろう。

文：越知絵里香　写真：板津亮

※表記は2009年6月現在のものになります。