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Sinn“「ジン」の総監督”ヨルグ・ダンドル氏が語る2022年の新作とこれからのブランド展開 02

顧客のリクエストを反映した
「ジン」の真摯な製品開発姿勢

ダンドル氏

「我社ではスイス製とドイツ製の部品を適材適所で使い分けています。たとえばケースは潜水艦用に開発されたUボート・スチールや、ドイツ製のダマスカススチールなどを用い、関連会社であるグラスヒュッテのSUG社で製造されます。このような特殊鋼材は、多くの特別なノウハウがなければ作れませんからね。一方でムーブメントはスイスのセリタやラ・ショー・ド・フォンのラ・ジュウ・ペレなどから調達しています」(ダンドル氏)


 このようなタフで機能的な時計作りで知られる「ジン」だが、製品開発の背景には、プロフェッショナルなパイロットやダイバーたちの意見が反映されているとダンドル氏は言う。


「たとえば我々が開発したパイロットウォッチのひとつである『717』は、1970年代後半、ドイツ空軍の戦闘機『トルネード』のコックピットクロックからアイデアを得て開発されました。開発のきっかけは、ある日、フランクフルトのジン本社に訪れた『トルネード』のパイロットの言葉でした。彼は『トルネード』のコックピットクロックと同じ外観の腕時計を作ってくれ、と言ったのです。

 そこでセンターに60分の積算計を装備し、ベゼルとクリスタルが一体化して手でインナーベゼルを回転させられるモデルを開発しました。これは技術的な挑戦でした。なぜなら、この機構を実現しながら十分な防水性や耐久性を保つことが非常に難しかったのです。このモデルのケースにはテギメント加工とPVDコーディングが施されています。このモデルはプロフェッショナルなパイロットの意見を取り入れましたが、もちろん一般顧客の意見も常に参考に開発を進めています」(ダンドル氏)


 それはどのようなモデルですか?


「たとえば『U1』では3つのタイプがあります。まずケースにUボート・スチールを採用したタイプ、これにブラックのベゼルを装備するタイプ、そしてフルにブラックのタイプです。通常このシリーズのケースでは、硬化処理を施すものはフルブラックのケ ースのみなのですが、他の 2種類のタイプもオプションでテギメント加工を施したUボート・スチールケースをオーダーいただけるようにしています 。

 その開発は顧客の要望でした。それは『ベゼルだけでなくケース全体をテギメント加工したものを作ってほしい』とリクエストをいただいたので、オプションとして自由に選べるようバリエーションを増やしたのです。『U50』でも同様にケースの仕上げを選べます。

 このように我々は随時、顧客や特約店、ホッタのような代理店からの要望を吸い上げ、時計の開発に取り入れています。我々は象牙の塔にこもっていることなく、要望を聞き、それに従って製品開発を進めているのです」(ダンドル氏)




「部品供給に問題はありません。
しかし人材の確保が我々の課題です」

実際に「ジン」を愛用する顧客や販売を担当する特約店からの意見に常に耳を傾け、それを製品開発にフィードバックしていると語るダンドル氏

実際に「ジン」を愛用する顧客や販売を担当する特約店からの意見に常に耳を傾け、それを製品開発にフィードバックしていると語るダンドル氏。「この東京での取材の後、大阪に行って『ジン・デポ心斎橋』を訪問する予定ですが、そこで顧客と話をする機会があると思います」(ダンドル氏)


 ところで、新型コロナ感染症の影響や世界的なインフレで時計の部品供給や流通に問題が発生し、それが停滞したり価格が上昇する事態が起こっていることについて、「ジン」はどのように対処しているのだろうか。


「確かに最近はインフレが進み、どの国でも時計の価格が上昇しています。しかし我々は、価格への転嫁は徐々にと考えています。ただ、これが正解だという解決作は見いだせていません。他のブランドも同じ状況で同じ問題を抱えていると思いますね。

 ただ、我々に関して言えば、特に部品供給が滞っているという状況にはありません。十分な部品のストックがありますし、それほど深刻な状況ではありません。それよりも目下の課題は生産が需要に追いついていないことです」(ダンドル氏)


 なぜ生産が追いつかないのですか?


「その原因は時計師の不足です。今や時計師はレア・スピーシズ(珍しい種)。今では募集しても人材の確保が追いつきません。当然、日本での製品供給も遅れ気味です。

 なにしろ若い人が時計師になるのは簡単ではありません。なりたい人も減っていますし、スマートウォッチが普及している状況ですから、時計師を育てることが一番の課題です」(ダンドル氏)


 ドイツでも時計師の確保が第一の課題という。それができなければ、現在の世界的な時計の人気を維持し続けていくことは不可能だろう。


「確かに今、時計は世界中で売れ、我々も成長を続けています。世界各国で需要は高まる一方です。多くの方が『ジン』を求める状況があり、それはとても嬉しいことです。

 実際、我々は過去3年間でも毎年10~20%需要が伸びています。しかし、それによって時計師が不足し、供給が追いつかない問題が起きています。ドイツでは職業学校で時計師を育成していますが、我々のスタッフも、そういった学校に出向き、時計師とは一体どのような職業かといったことを、頻繁にレクチャーしています。これによって若い人が時計師に興味を持ってもらえるように努力しているのです。またジン本社でも、職業学校の生徒を招待しての工場見学を、月に1~2回ほど開催しています」(ダンドル氏)


 顧客や特約店からの要望を反映した製品開発と共に、時計の製造やメインテナンスに不可欠な時計師という人材の養成と確保にも努力を惜しまない「ジン」。その製品を確かめ、スピリットに触れることのできる「Sinn DEPOT(ジン・デポ)」が2023年には、さらに増えていくというが、それが今から楽しみだ。


  • ヨルグ・ダンドル
  • Jörg Dandl
    ヨルグ・ダンドル

    1970年、ドイツ・マインツ生まれ。2004年から2008年まで医療機器メーカー「TRACOE medical GmbH」に勤務。2009年1月に「ジン」に入社し、サプライチェーンの構築などを担当した後、2013年に一旦、社を離れたが、2016年9月に復帰し、インターナショナル・セールス・ディレクターに就任。



INFORMATION

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株式会社ホッタ
〒104-0045 東京都中央区築地5-6-4-6F
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