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TAG Heuer新作「オータヴィア アイソグラフ」の革新的技術とは?

アメリカの大学との共同研究から始まった
カーボンコンポジット製ヒゲゼンマイの開発

「オータヴィア アイソグラフ」に搭載されるタグ・ホイヤーの自社製造ムーブメントの「キャリバー5」

「オータヴィア アイソグラフ」に搭載されるタグ・ホイヤーの自社製造ムーブメントの「キャリバー5」には、重力や衝撃からの影響を受けにくく、完全な同心円状の振動により高精度化されたカーボンコンポジット製ヒゲゼンマイと極めて軽量なアルミ製のテンワが採用されている。


 2019年3月のバーゼルワールドで発表された新作「オータヴィア アイソグラフ」に搭載されたカーボンコンポジット製のヒゲゼンマイとは、一体どのようなもので、どこが特徴なのか? 話をまず、ここから始めよう。


「この素材を採用した理由の第一は、サプライヤーに頼ることなくタグ・ホイヤーが独立性を保つためです。第二の理由は耐磁性に優れたムーブメントを作りたいという欲求からでした。その開発は2015年、ギィ・セモン(タグ・ホイヤーのジェネラルディレクター)の発想から始まり、2~3年はアメリカの工科大学の研究所と共同で研究を行いました」


 なぜアメリカの大学なのか? スイスにも優秀な大学はいくつもあるはずだが…。


「もちろん、スイスにも優れた大学はありますが、そこでは新しいスティールやニッケルなどの開発に力を注いでいるのです。しかし、我々の目標はカーボンを使うことでしたから、最適な大学はスイスにはなかったのです。


 そこでギィ・セモンがアメリカの大学を知っていたので、その大学と共同研究することにしました。また、スイス国内の大学で共同研究を行う場合、他社も同じ大学に研究を依頼する場合がありますから、機密性保持の点でも違う国の大学を選ぶことにメリットがありました」

 このアメリカの大学との共同研究の後、基礎的な技術開発に成功したタグ・ホイヤーは、自社内に開発チームを設置し、量産を目標とする実質的な開発にコマを進めた。


「2016年8月から自社で製造するための専門エンジニアを開発チームに受け入れ、2017年に製造機械を社内に導入し試作を開始しました。大学との共同研究で製造原理はわかっていましたが、それを自社で量産できるかが課題でしたが、それも成功し2台目の製造機器を2018年に導入しました」


「カーボンコンポジットはシリコンなどに比べ、
格段に設備投資がリーズナブルな素材です」

「きっかけはセモンから、“新素材を開発するためにタグ・ホイヤーに入ってくれ”と頼まれたから」と語るヴァンサン・ポスタ氏

ヴァンサン・ポスタ氏は時計師ではなく物理と数学を専門とする技術者。「私は1993年からギィ・セモンと共に仕事をし、エネルギー分野で研究開発をしていた経験があります。タグ・ホイヤーに入社して3年目ですが、きっかけはセモンから、“新素材を開発するためにタグ・ホイヤーに入ってくれ”と頼まれたからです」


 しかし、タグ・ホイヤーはヒゲゼンマイの新素材として、なぜカーボンに着目したのか?


「カーボンを選んだ理由は単純に設備投資が少なくてすむからです。シリコンでヒゲゼンマイを作るには無菌状態のラボ(研究室)が必要ですが、カーボンなら、それは必要ないので設備投資としてはリーズナブルです。

 しかも我々は研究開発と製造のための設備をオフィスの中に設置しましたが、カーボンなら危険でも有害でもないので、それが可能です。もちろん、高温でエチレンガスを飛ばしたり、水素を用いることもありますが、そこだけ気をつければ問題はありません。なにしろ製造機械からデスクまで、わずか4mほどしか離れていませんからね」


 ここでひとつ疑問が沸いた。それは「カーボンコンポジット」という素材の名称。通常、「コンポジット(composite)」とは複数の素材を組み合わせたものを意味するが、この新しいヒゲゼンマイにはカーボン以外の素材も使われているのか?


「いいえ、100%カーボンですが、最初の製造過程でエチレンガスから水素を取り除き、そこにカーボンを入れると元素が付着して、ヒゲゼンマイの形状に成形されていくところから、“カーボン原子が融合する”という意味でコンポジットという名称を用いました」


 一体、カーボンの原子が融合してヒゲゼンマイの形状になるとはどういうことか?


「カーボン原子を融合させヒゲゼンマイの形状にするには、チューブ内にある鉄の型にカーボン原子を付着させ、層にして形状を作ります。ですから型さえ作れば、どんな形も可能です。しかも原子が密着するので非常に丈夫なのです」


「現在はCOSC公認クロノメーターですが、
我々はそれ以上のものを目指しています」

ブルーやブラウンの美しいグラデーションのダイアルを採用する新作「オータヴィア アイソグラフ」

ブルーやブラウンの美しいグラデーションのダイアルを採用する新作「オータヴィア アイソグラフ」。ブラウンのカーフスキン製ストラップの他、ステンレススチール製ブレスレットを選ぶことも可能だ。


 ではカーボンコンポジット製ヒゲゼンマイの特性は?


「カーボンは軽量ですから衝撃を受けても吸収し、ひねりねじれにも非常に強いのです。タグ・ホイヤーの製品は基本的にスポーツウォッチですから、それを踏まえてできる限りショックに強いものを目指した結果がカーボンコンポジットなのです」


 ところで型に原子が付着してヒゲゼンマイの形状が作られるのなら、その特性を均一にできるはず。テンワとのマッチングは考えなくても良いのだろうか?


「いいえ、現段階では完全に均等にはできません。実はナノ単位で厚みが異なるので、検査をして何種類かのクラスにわけ、テンワとのマッチングで調整しています」


 このヒゲゼンマイの形状は、いわゆる“平ヒゲ”ですね?


「はい。ただし技術的にはヒゲゼンマイの巻き方に厚みを付けたり角度を付けることは可能です。しかし三次元造形でブレゲヒゲ(巻き上げヒゲ)を作ることは考えてはいません。現段階より等時性をさらに高めるなら、ヒゲゼンマイの外端カーブを研究したいですね」


 失礼だが早い話、精度は向上したのか?


「カーボンコンポジットのヒゲゼンマイを搭載したモデルは、COSC公認クロノメーターの検定に合格していますが、我々は、それ以上のものを目指しています。しかもヒゲゼンマイ自体は完全に耐磁で磁場に入れても変化はなく、精度も安定を保っていますが、時計全体の耐磁性は現在、開発中です」


 このヒゲゼンマイは今後、全製品に搭載するのだろうか?


「もちろんです。もともと開発の目的がメーカーとしての独立性を保つためでしたから、3年間という短期間で開発し商品化にこぎつけ、まず2019年の新作に搭載しました。そして、将来的にはすべてのコレクションに搭載したいという考えはあります。

 今年の新作ではシンプルなキャリバー5ですが、他のモデルにも搭載して安定性が認められたら、どんどん採用していきます。レディス・モデルも例外ではありません」


 最後に気になる製造コストについて伺いたい。


「現状、月に1万個は作れますし、年間の製造目標は10万個です。さらに生産が軌道に乗れば、その7倍程度は作れるのではないかと考えています。

 ただ、エチレンガスを送り込む向きによって原子が付着する具合が違うので、その向きを調整できれば、すべてのヒゲゼンマイを均等にできるはずです。現状でも約80%は合格しますが、その割合を高めていきたいのです」


 なるほど。新しい技術や素材を使った新作時計は、どうしても高額になる傾向があるが、タグ・ホイヤーの「オータヴィア アイソグラフ」が比較的、手頃な価格なのは、製造コストも含め、極めて巧みかつ配慮深い開発と製造の手法にあったというわけだ。

 この注目のカーボンコンポジット製ヒゲゼンマイを採用するタグ・ホイヤーの「オータヴィア アイソグラフ」がいよいよ発売される。そのシンプルなスタイルに隠された最先端のメカニズムとパフォーマンス。それを是非、見逃さないでいただきたい。

  • ヴァンサン・ポスタ
  • Vincent Posta
    ヴァンサン・ポスタ

    タグ・ホイヤー インスティテュート オペレーション&イノベーション・ディレクター。タグ・ホイヤーのジェネラルディレクターであるギィ・セモンの右腕といわれている。数学者。

オータヴィア アイソグラフ

オータヴィア アイソグラフ

グラデーションが美しい深みのあるスモーキーブルーのダイアルと、このカラーにマッチするブルーのセラミック製回転ベゼルを装備。ダイアルにはギリシャ語で“同等”を意味する“iso”から取った「ISOGRAPH」と表記されている。

Ref.:WBE5112.EB0173
ケース径:42.0mm
ケース素材:ステンレススティール
防水性:100m
ストラップ:ステンレススティール(NATOストラップ付属)
ムーブメント:自動巻き、Cal.キャリバー5、パワーリザーブ約38時間、日付(早送り機能付き)、秒針停止機能
仕様:両方向回転ポリッシュ仕上げセラミック製ベゼル、サテン仕上げスティール製ケースバック 、オータヴィア独自のデコレーション
価格:425,000円(税抜)
発売予定:2019年*月

  • オータヴィア アイソグラフ
  • ステンレススティールケースにスモーキーブラックのダイアルとカーフスキン製ストラップを装備したモデルも用意されている。
    Ref: WBE5110.FC8266
    価格:385,000円(税抜)


取材・文:名畑政治 / Report&Text:Masaharu Nabata
写真:堀内僚太郎 / Photo:Ryotaro Horiuchi

INFORMATION

タグ・ホイヤー(TAG Heuer)についてのお問合せは・・・

LVMH ウォッチ・ジュエリー ジャパン タグ・ホイヤー
TEL: 03-5635-7054


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