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Le monde des créateurs indépendantsスイス在住の日本人時計師 関口陽介さんの自作時計がついに完成 01

想像もしなかった自作時計が
協力者の後押しでついに完成

関口陽介さん

独学でフランスの国家資格を得て時計師となった関口陽介さん。独創的な複雑時計を得意とする独立系時計メゾン「クリストフ・クラーレ」退職後、古時計の修理を行いながら、ついに自作時計を完成させた。「修理の仕事は今でも受けていますが、今後はできる限りハイエンドな時計の修理に絞っていきたいですね。ちなみにメーカー下請けの組み立ての依頼はすべて断っています」

 あれは2010年ごろだったか? バーゼルワールド取材の際、AHCI(独立時計師アカデミー)のブース前を通り過ぎようとした時、「名畑さんですよね?」と声をかけてきた日本人がいた。それが時計師の関口陽介さんだった。

 当時、彼は独立系時計工房「クリストフ・クラーレ」に入社して間もない頃だったが、すでに複雑時計の組み立てを担当しています、と教えてくれた。

 その後、一度じっくり話を伺いたいと思いつつ機会がなかったが、2013年の夏に銀座で行われた展示会のため関口さんが来日。ついにインタビューが実現し、Gressive誌上で紹介したのだった。

 あれから9年。その関口さんがついに自作の腕時計を完成させ、そのお披露目が東京で開催された。もちろん、私もそのプレビューに参加し、再び関口さんへのインタビューを行うことにした。

 そもそも関口さんは、スイスに渡った時点で独立時計師を目指していたのですか?


「いいえ、それはありませんでした。2003年の出発時は、本当に時計の仕事ができるのか、学校に入れるかなど、まったくわかりませんでしたし、とても自分の時計を作るとは想像できませんでした。

 その後、クリストフ・クラーレに在籍中、トゥールビヨンなど複雑モデルを担当し、開発にも携わっていましたが、自分自身で時計をシリーズ生産することはまったく別ものですから、自作の時計は想像もしなかったですね。

 ところが2~3年ほど前、奈良で時計店を営む小柳和彦さんと出会い、彼に自作時計を後押しして貰ってからは、本格的に自分の時計を作ることを考え始めたのです」


「既存のエボーシュで納得できなかったので
イチから自分で作ることにしたのです」

「プリムヴェール」の前に関口さんが製作した古い小型懐中時計のムーブメントを搭載した腕時計

「プリムヴェール」の前に関口さんが製作した古い小型懐中時計のムーブメントを搭載した腕時計。「これは1872年に作られたユール・ヤーゲンセンのムーブメントをレストアしケーシングしたものです。針は同時代のヤーゲンセンを流用。文字盤は当時のオリジナルです」

 でも、以前から古いムーブメントをレストアして自作のケースに入れたりはしていましたよね?


「ええ。でも、それはあくまでも趣味でしたから」


 趣味?


「オールド・エボーシュをいじるのは以前からやっていました。しかし、今回のモデルは金属の塊から削り出してムーブメントを作りました。これは、ちょっと前にはやってみようとすら思っていなかったことなんです」


 既存のエボーシュを仕上げる方法は考えなかったのですか?


「もちろん、古いムーブメントを仕上げ直すことも考えましたが、既存のエボーシュで自分が納得のいくもの、理想とするものを作れるクオリティのものは見つからなかったんです。しかも、同じエボーシュは大量に手に入りません。だったらイチから自分で作ったほうが現実的だと考えました」


 この時計を作るにあたって特に難しかった部分は?


「全部が難しかったですね。特に歯車。これを作るには専用のカッターがないと難しいのですが、私は持っていません。しかも、部品を作ったり、複雑時計を組み立てたり、古い時計の修理はできましたが、基本的な時計の設計というものを知らなかったのです。

 その上、パソコンの使い方も知らないので、まず図面無しで歯車を作り、知り合いの技術者に『この歯車が切れるカッターを教えてくれ』と頼んだのです。

 すると彼は『古い歯車を測定して、そのシルエットから設計を起こせばいい』とアドバイスをくれて、そのやり方を採用しました。ですから量産のためのムーブメントは、私が手作りしたムーブメントを計測し、そこから図面を作っていったのです」


 通常とはまるで逆の方法ですね。そういえば関口さんの自作ムーブメントは、古いヤーゲンセンのスタイルですが、これを選んだ理由は?


「ヤーゲンセンのムーブメントが、このスタイルに出会った最初で、非常に衝撃的だったことが理由のひとつです。特にデザインに無駄がない印象を受けました。とにかく、『こんなに統一感があって、直線と曲線が美しく配置されたムーブメントがあるのか!』と感動したのです」


 実際、関口さんは自作時計の前に古いユール(ジュール)・ヤーゲンセンの小型ムーブメントを入手し、それを腕時計に改装している。それが実は自作時計の雛形となった。


「ヤーゲンセンの小さなサイズのムーブメントを手に入れて『これを腕時計にしたら素晴らしいだろうな』と思ったのが3年以上前でした。当然、同じものを探したのですが見つからず、結局、自分で作るしか無いと確信したのです。

 しかし、『到底、自分が作れるようなものではない』と漠然と考えていたところ、『やってみたらどうですか?』と後押ししてくれたのが、小柳さんだったというわけです。

 しかし、小柳さんには『では、やってみます』と言ったものの、どうすれば作れるのか五里霧中でしたし、『本当にできるかな?』と半信半疑でした。

 ところが2019年、小柳さんに進捗状況を聞かれた際、つい、『近いうちにできます』と言ってしまったんですね。これが実は大きなストレスになったんです」




取材・文:名畑政治 / Report &Text:Masaharu Nabata
写真:山下亮一 / Photo:Ryoichi Yamashita


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