THE HOUR GLASS美しい時計が揃った銀座屈指の名店「アワーグラス銀座店」がリニューアル 01

流れる時を楽しむサロン

入り口からすぐの場所には、6つの独立した什器があり、ジャガー・ルクルトやジラール・ペルゴなどが展示される。右手奥がパテックフィリップのコーナーとなる。

　数ある高級時計店の中でも、「アワーグラス銀座店」はかなり個性的だ。まず扱う時計は、同社CEOの桃井敦氏の審美眼にかなったブランドのみに厳選される。その基準は明確で、まずは多くの人たちに愛されてきた老舗ブランドであること。またはジャンルにおいてナンバーワンであること。つまり「どこにでもあるような時計は置かない」。それが揺ぎ無いポリシーである。

　確かに店内に展示されている時計は、どれもが驚くべきモデルたちだ。

「希少なハイコンプリケーションモデルなどのハイエンドウォッチは、生産数が少ないこともあってカタログを見て注文することが多い。しかしそれでは、時計の魅力を理解することはできません。だからこそ我々は、数千万円クラスの時計であっても仕入れ、実際に見てもらい、触れ、腕に載せてもらう。そういった経験を通じて、高級時計の世界をより深く知ってもらうのです」

パテックフィリップのコーナーは、ゆったりとした贅沢な作りに。奥には商談室があるが、仕切りのガラスはスイッチで曇りガラスになる仕組み。プライバシー管理も万全である。

　“アワーグラスには、凄い時計がある”。それは時計愛好家にとっては常識となった。そしてトゥールビヨンやミニッツリピーターといったハイエンドモデルを多く扱うことで、スタッフの知識レベルも高まり、より密度が濃く、信頼度の高い接客が可能になる。そういった良い循環によってアワーグラス銀座店は、世界に知られる名店となったのだ。

　そんな名店が、創業25周年を迎えた2021年に大規模リニューアルを行った。

店内のセンターに移動したバーカウンター。高級ホテルと見紛うばかりの雰囲気だ。バーの壁面は大理石製だが、実はそのマーブル模様で砂時計（アワーグラス）を表現している。

　入口にあった大きな壁が取り払われたことで奥まで見通しが良くなり、誰もが入りやすい店構えとなった一方で、右手側にあったパテックフィリップのコーナーを刷新。日本では唯一のエクスクルーシブ・ディーラーとして、内装やシャンデリアなどが特別な設えになっている。スペースはゆったりとしているが什器は少なく、展示商品もあえて増やしてはいない。しかしスタッフに一声かければ、奥から至極の銘品たちが出てくる。アワーグラス銀座店は、熟練のスタッフと時計談義を交わしながら時計選びを楽しむ場所なのだ。

　そういった“サロン”としての魅力を、より強めるのが奥にあるバーカウンターである。コの字型になったカウンターでは、シャンパンやドリンクなどが供されるだけでなく、手元照明も完備されており、そのまま商談や時計談義の場所にもなる。もちろん落ち着いて時計を見たいという人のために、表通りから見えない場所にソファスペースを設ける配慮も嬉しいところだ。

一般的に時計店のブランドブースは、各ブランドが提供する専用の什器をそのまま取り入れるのが決まりだが、アワーグラス銀座店では店の空間に合う形で再編集しているので、ラグジュアリーな統一感がある。

　さらに今回のリニューアルを祝して、2つのスペシャルウォッチも発表されたのもニュース。一つはサーモンカラーのダイヤルが美しいユリス・ナルダンの「クラシコ」。そしてギヨシェ彫りを施したヴァシュロン・コンスタンタン「トラディショナル・トゥールビヨン」の美しさには息をのむ。こういったスペシャルモデルを製作できるのは、長い期間をかけて築き上げてきた実績と信頼があるから。これも「アワーグラス銀座店」が特別な時計店であることの証である。

　取材を終え、スタッフたちと時計談義を交わしていると、置時計シンクレアハーディングの美しい音色が店内に響き渡った。その音に聞き惚れ、精密なメカニズムの説明を聞くのも楽しいひとときだ。「アワーグラス銀座店」は、時計の街に生まれた時計愛好家のためのサロンである。喧騒から離れた美しい空間で、流れる時と戯れたい。