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Le monde des créateurs indépendants時計業界での豊富な経験から生まれた現代のヴィンテージ・ウォッチ『NH TYPE 1B』

「時計業界への転職は
実は自分の時計作りのためでした」

2019年3月2日に東京青山の発表会でお披露目された『NH TYPE 1B』は、飛田直哉氏が設立した「NH WATCH」による第一号製品

2019年3月2日に東京青山の発表会でお披露目された『NH TYPE 1B』は、飛田直哉氏が設立した「NH WATCH」による第一号製品。スイス製自動巻きクロノグラフ・ムーブメントの定番であるETAヴァルジューCal.7750から自動巻き機構を取り除き、ブリッジ等を新造して組み込んだ独自ムーブメントを搭載するハイエンドな手巻きシンプル・ウォッチである。

 日本の高級時計業界を20年以上牽引してきた飛田直哉さんが手がける『NH TYPE 1B』とはどんな時計か? それをうかがう前に、まず時計業界と飛田さんとの関わりを聞いた。


「時計業界に入る前はガレージキットの原型製作や特撮映画向けミニチュア制作の会社に勤めていましたが、1990年、スイス時計の輸入代理店(当時)の日本デスコ大阪支社に入りました。きっかけは“自分の時計を作りたい”という思い。しかしヴィンテージ・ウォッチ店に行くと現行品よりヴィンテージのほうが魅力的に見え、“もうヴィンテージ業界に行こうか?”と思っていたところジャガー・ルクルト本社からジャン-マルク・ケラー副社長(当時)が来日し、新作の『マスターコントロール』のプレゼンテーションを見て、“現行品でもヴィンテージと同じことができる”と気付き、時計業界での仕事を続けることにしたのです」


 やがて94年、やはりスイス時計の輸入商社として知られる日本シイベルヘグナー(現DKSHジャパン)に転職。大阪営業所勤務となった。


「その頃、興味を持っていたのがブレゲ。日本シイベルヘグナーはブレゲの代理店(当時)だったので迷わず転職しました。2年後、東京本社に転勤しました」


 ここでついに夢の一端が実現。それがスイス老舗ブランドの限定品企画だった。


「当時、日本市場が世界最大だったそのブランドは、非常に友好的な雰囲気でした。私はそのブランド自社製の自動巻きムーブメントを使ったモデルを企画し、97年に限定販売しました。この後も同じブランドで往年の名機の復刻も実現し、結局、5つのモデルを企画し、“頼めばできる”という感触を得ました。反面、どうしても制約があり、理想を完全に実現することは不可能とも悟ったのです。

 また、ヴィンテージ・ウォッチも並行して研究していたのですが、そこにも理想的なモデルがなかなか存在しないこともわかりました。つまり、ムーブメントのサイズとケースのバランスに納得できなかったんです」


若き時計師との出会いが
時計作りを加速化させた

ヴィンテージに迫る立体的な造形を実現する「NH TYPE 1B」

ヴィンテージに迫る立体的な造形を実現するため、洋銀(ジャーマンシルバー)製文字盤の厚さは0.8mm。これは通常の0.4mm厚と比べると倍の厚さ。インデックスは手彫り、分目盛りのドットと『NAOYA HIDA & Co.』というロゴは機械彫りで、人工漆が入る。ロゴはヴィンテージに倣って控え目なサイズを選んだという。針は微細加工機で削り出し青焼き加工されている。

 やがて2004年、独立時計師ブランドのF.P.ジュルヌに入社。その5年後の2009年にはリシュモン・ジャパンに移り、ラルフローレン ウォッチアンドジュエリーの立ち上げに参加。ブランド・ディレクターとなりラルフローレンウォッチを成功へと導いた。そして、自身の時計を作るという夢が、この頃から本格化した。


「スイスで時計を作ることを本気で研究したのです。しかし、非常にお金がかかり、業界に完全に入り込まなければ難しい。そこで日本で作ることにして、2012年から準備を始めました」


 その結果、飛田さんは自身の時計作りを目指す若き時計師ふたりと出会い、自らのコンセプトによる時計作りを模索し始めた。

 そこでまず問題となったのは搭載ムーブメントとケースのサイズだった。


「最初はケース径38.0mmを考えましたが、少し大きすぎるので1.0mm縮小し37.0mmにしました。そこに、できる限り大きなムーブメントを搭載したいのですが、最初から作るのは難しいため既存ムーブメントで適合するものを探しました。

 最初に規範としたのはパテック フィリップの『96』(カラトラバ)です。これは直径約27.0mmのムーブメントを外径30.5mmのケースに収めています。ただ、直径37.0mmのケースに27.0mmのムーブメントを入れるとスモールセコンドが中心に寄り、よろしくない。そこでヴィンテージを探したところ、どれも“帯に短し襷(たすき)に長し”で理想のモデルは存在しないとわかったのです」


 そこで飛田さんは現行ムーブメントを検討。しかし、これもまた難しかった。


「手巻きではユニタスCal.6497しかありませんが直径37.0mm以上で大きすぎ。一方、薄型の名機と呼ばれるプゾーCal.7001は薄すぎますし、スモールセコンドの位置が中心軸から近く理想ではありません」


 一体、どのムーブメントを採用するか? 悩む飛田さんにひとつの提案があった。


「自動巻きクロノグラフの定番ヴァルジューCal.7750から自動巻き機構を取ればいいのでは、と言うのです。検討すると中心軸とスモールセコンドの軸間距離が実に理想的。ただ、私はジャリジャリとした7750の巻き味が好きではないので、どうせブリッジを作り直すならコハゼとコハゼバネを再設計すれば理想に近い巻き味が得られると考えました」


 その結果、ヴァルジューCal.7750から自動巻き機構を取り除き、ブリッジ等を再設計して組み込むことで外径37.0mmのケースに収まり、かつ中心軸とスモールセコンドの距離も程よく離れた理想的なマッチングが見つかったのである。


かずかずの試行錯誤を経て
2019年3月、ついに正式発表へ

「NH TYPE 1B」の右が製品版、左が2018年1月に完成した試作品

右が製品版、左が2018年1月に完成した試作品。一見、ほとんど違いがないように思えるが、ケースの厚さ、ラグ形状、アラビア数字インデックスのサイズと位置、リューズや針の造形など、改良された部分は多岐にわたっている。

 次に問題となったのはケース素材だった。


「私は当初から904Lという宇宙空間や化学産業の分野で使われるステンレススチールの採用を考えていましたが、どこのケース製造メーカーに聞いても門前払い。ほぼ不可能となったのですが、産業工作機械の見本市で碌々産業(ろくろくさんぎょう)さんを知りました。この会社は超高精度微細加工機械の専門メーカーで、半導体の金型を作る会社などが主なクライアント。相談すると『取引先を広げたいのでアートなどさまざまな分野と仕事をしたい』と協力を快諾してくれたのです。しかも私が『鍛造したスチールを削ってほしい』と申し出ると、碌々産業さんは『超硬素材でもできますよ』と言う。これでケースの素材と加工の問題はクリアできました」


 しかしなぜ、飛田さんは904Lという素材に執着したのか?


「実は時計業界に入った頃、持ち込まれる修理品を見ると錆がケースのフチに発生しているものが多い。ですがロレックスにはこれがない。そこで『なんでロレックスには錆が出ないのか?』と修理担当技術者に聞くと、『これは904Lというステンレスで素材自体が違う』と言う。『なぜ他社は904Lを使わないのか?』と聞くと技術者は『316Lと大きな違いはなく、加工が難しくコストが高い』と言うのです」


 今でも製造コストの高い904Lを採用するメーカーは希だが、飛田さんはどうしてもこの素材を使いたかったという。

 さらに文字盤も問題。理想は当然、ヴィンテージ。それも懐中時計時代のブレゲ。この時代、スモールセコンドなどインダイアルは別部品を文字盤の裏から嵌め込むものが多かったので、それを目指したがハードルが高く断念。そこでスモールセコンドのサークルを削り込んで段差を付けて立体造形。文字盤外周部の分目盛リングは別部品として溝を掘って嵌め込んだ。

 これらの経緯を経て2018年1月に試作品が完成。ここで発表するか悩んだが、細部を検討し改良することで、ほぼ1年後の2019年3月2日に東京青山での発表会にこぎ着けた。

 発表後、すぐに反響があった。シンガポールからも引き合いがあり、2019年中に販売する予定の7個には、海外向けも含まれているという。


すでに多くの派生モデルは頭の中に
NH WATCHの未来ビジョン

「2019年は9個を製造し、1個をテスト用、1個はプライベート用として保存する予定です。そして2020年には、ひとりの時計師がフルタイムで組み立てできるようになれば、年間で20個は製造したいと考えています。この20個の半分を日本、半分を海外で販売する予定です。さらに発展モデルの『TYPE 2』も考えていますから、将来はこれも含め、80~100個製造できればと思います。

 実は今のところ『TYPE 8』まで構想はあり、それらがすべて実現できれば時計の製造販売だけで会社を維持できるでしょう。

 Dバックルとブレスレットは、すでにアイデアはできあがっていますが、製造を委託するサプライヤーを見つけるのが難しいのです」


 それにしてもなぜ、日本における高級時計の世界を牽引してきた飛田さんが、キャリアを捨てて自身のアイデアによる時計作りへと向かわせたのか?

「それは、今こそ人生で一番リスクをとれる時期だったからです。私が所属していたのは大きな会社で、ここで60歳まで働くほうが生活は安定しているでしょう。しかし、自分の時計を作りたいという思いは業界に入った当初からあり、それを実現するには今が一番良い時期だと判断したのです」

 既存のムーブメントを改修するという大胆な発想と、自らの経験から得た知見を注入することで誕生した飛田直哉さんの『NH TYPE 1B』。それは、これから独自の時計作りを目指す人々にとって、ひとつのマイルストーン(里程標=モノゴトの発展や開発における指標)であり、日本の時計作りにとっても、極めて重要なプロダクトだと思うのである。



  • NH TYPE 1B
  • NH TYPE 1B

    1930~50年代のヴィンテージ・ウォッチのデザインを取り入れつつ、ケース径37.0mmという現代的なサイズと実用性を兼備する“現代のヴィンテージ・ウォッチ”。ETAヴァルジューの自動巻きクロノグラフから自動巻き機構を排除して手巻き化すると共に、新開発のコハゼ機構を組み込むことでヴィンテージに迫る巻き上げ感覚を楽しめる。

    ケース径:37.0mm
    ケース素材:904Lステンレススチール
    ストラップ:手縫いベジタブルタンニングカーフ
    ムーブメント:手巻き、Cal.3019SS、18石、約45時間パワーリザーブ
    仕様:イタリア産ベジタブルタンニングレザー製ボックス付属
    価格:1,800,000円(税抜)


    【お問合せ】
    NH WATCH株式会社
    東京都中央区築地3-2-10
    www.naoyahidawatch.com



『NH TYPE 1B』の完成へ大きく貢献した
超精密微細加工機の碌々産業とは?

碌々産業

『NH TYPE 1B』のケース製造および文字盤等の微細加工を担う碌々産業は、超高精度微細加工機及び特殊工作機械のメーカー。1903年、東京銀座で創業した「碌々商店」を母体とし、創業当初は機械工具類の輸入販売を行っていた。やがて1965年に国産第一号のNCボール盤の開発に成功。1996年には高精度高速小径微細加工機「MEGA」を完成。最近では「はやぶさ2」の姿勢制御用エンジンの超高精度ノズル穴明け加工も担当するなど、微細加工機(高速ミーリング加工機)において国内市場シェアNo.1を誇る。本社は東京高輪。工場は静岡県焼津市にある。
www.roku-roku.co.jp


  • 碌々産業が手がける最新の超高精度高速微細加工機『Vision』
  • 碌々産業が手がける最新の超高精度高速微細加工機『Vision』。碌々産業が誇る高度な微細加工テクノロジーを惜しみなく搭載することで「磨き上げられた技術と基本性能でこれまでの微細加工機にはなかった価値観を新たに創造したい」という思いが込められている。


取材・文:名畑政治 / Report & Text:Masaharu Nabata
写真:江藤義典 / Photo:Yoshinori Eto


INFORMATION

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NH WATCH株式会社
〒104-0045 東京都中央区築地3-2-10

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