メインコンテンツに移動

SWISS Confidential Vol.27スイス時計事情 第27回 バーゼルワールドに激震走る

もはや巨大な見本市は
時代のニーズに即していないのか?

建築家ユニット「ヘルツォーク&ド・ムーロン」によって設計されたバーゼルワールドのメッセ会場

スイス・バーゼル出身の建築家ジャック・ヘルツォークとピエール・ド・ムーロンによる建築家ユニット「ヘルツォーク&ド・ムーロン」によって設計されたバーゼルワールドのメッセ会場。新しいホールは、建物の間にあったトラム(市電)の停車場を覆うが、そこに巨大なヴォイド(空洞)が作られ陽光が差し込む。

  背景にある問題のひとつは、出展料の高騰である。2013年に、ヘルツォーク&ド・ムーロンデザインの設計による斬新な見本市会場が完成してからの出展料の高さは問題になっていた。新会場の構想が持ち上がった2000年代は、スイス時計産業が好況の波に乗り、誰もが右肩上がりの持続的な成長を思い描いていた良き時代だった。そして、リーマンショックも克服した2010年代は、空前の輸出拡大とバーゼルワールドの来場者数の記録更新に沸いたのだが、新会場竣工の翌年の2014年をピークにして輸出は減少に転じ、その後2年間も歯止めなく下降線をたどり、スイス時計産業の関係者の間に危機感が広まった。そうした中で高い出展料に見合うだけの受注見通しがたたないというブランドも続出するようになったのだ。


  バーゼルワールドが100周年を迎えた2017年になって、ようやく輸出が回復傾向に転じたことは、このスイス時計事情 第26回「現実味を帯びてきたV字回復」(2017年9月7日公開)でも紹介したが、実際は、以前のような何でも売れる「イケイケ」ムードよりも、消費者のニーズに合った手堅い時計づくりに舵を切ったという印象を受けた。なにしろV字回復といっても、あまりに好調だった以前のレベルには戻っていない。そんな中、膨大な資金を投入して建設した新見本市会場の「減価償却」のためにブランドが高い出展料を負担するのは御免だと考えるハイエック氏の見解は、多くの出展ブランドを取り巻く厳しい状況を代弁しているとも受け取れる。


  出展料だけではない。大規模な国際見本市ともなると、とにかく費用がかかる。ブランド側としては、贅沢なブースの設営のみならず、フェア期間中のスタッフにかかる諸費用が相当な額になるし、一方で世界から訪れるバイヤーやメディア側も、相応の出費を覚悟しなくてはならない。このようなコストや労力をかけた「見本市」でどれほどの費用対効果が得られるのかは、主催者、出展者、バイヤー、メディアにとって同じように重要な問題だ。情報ならウェッブで簡単にやり取りができるデジタル時代に、「ヒト・モノ・カネ」を総動員する伝統的な「見本市」は時代遅れとする見解もある。それは、バーゼルワールドに限った話ではないだろう。

取材・文:菅原茂 / Report & Text:Shigeru Sugawara
構成:名畑政治 / Direction:Masaharu Nabata
撮影:江藤義典 / Photo:Yoshinori Eto


Swiss Watch Confidential backnumber | スイス時計事情バックナンバー

NEW RELEASE

新着情報をもっと見る