時計業界において、自社ムーブメントを所有するメリットは大きい。
時計作りにおける独立性を保てるだけでなく、オリジナリティも発揮できるからだ。
その一方で、開発や生産のコスト増による価格の上昇は、デメリットになるだろう。
ではミドルレンジの秀作を作っているオリスは、なぜ自社ムーブメントを作るのか?
そこには歴史と伝統を重んじる、オリスの精神が隠れている。
1970年代には年間120万本の時計を生産する巨大ブランドとなったオリスは、自社で数百種ものムーブメントを開発してきた。しかも重要なパーツであるレバー脱進機を独自開発したり、ヌーシャテル天文台からクロノメーター認定を受けたりするなど、その実力も高く評価されており、特にCal.373を搭載したポインターデイトモデルは、ブランドのアイコンモデルとして長く愛された。
その後1970年代のクオーツショックの影響でASUAG(後のスウォッチグループ)に吸収されたが、1982年にジェネラルマネージャーのロルフ・ポートマンとマーケティング部長だったウーリック・W・エルゾック(現会長)が経営陣買収を行い独立。時計製造のプランを見直し、再び熱気を帯びつつあった機械式ウォッチのみを生産することにした。そして基礎ムーブメントはETAなどの汎用品を使いつつ、モジュールを自社開発することで独自性を追求するというムーブメント戦略を採用した。
ポインターデイトはもちろんのこと、アラームやレギュレーター、ワールドタイマーなど、機能のバリエーションを増やしつつも、価格をミドルレンジに収めることができたのは、この巧みなモジュール式ムーブメントという戦略があったからなのだ。またシースルーバックから見えるローターは「レッドローター」と呼ばれる独自のデザインに変更しており、オリスが培ってきたウォッチメイキングの伝統はしっかりと受け継いだ。
1990年代に入り、機械式ウォッチへの注目が再び高まり始めると、汎用ムーブメント×自社製モジュールで独自性を追求するというオリスの戦略は大成功を収める。オリスは「スイス時計の良心的ブランド」として評価されるようになり、時計初心者から目の肥えた愛好者まで幅広い層に愛されるブランドとなった。
しかしウーリック・W・エルゾックは、かつてのオリスを取り戻すことを忘れてはいなかった。オリスには、モジュール設計で腕を磨いた才能ある技術者チームがある。彼らの才能を生かせば、新しい自社ムーブメントを作ることができると確信していた。
10年以上の時間をかけて慎重に開発した「Cal.110」は、創業110周年となる2014年にデビュー。実に35年ぶりの自社製ムーブメントとなった。
それだけの時間を費やしたのは、久々の復活にふさわしい機能を備えていたからだ。オリスはこのCal.110を設計するにあたって、10日間という超ロングパワーリザーブを実現させた。通常なら、これだけの持続時間を実現せるには大きな香箱を複数搭載する必要がなる。しかしオリスは時計を厚くしたくなかった。そこで大きな香箱に効率よくゼンマイを収め、トルクを長時間維持する方法を導き出した。また、このパワーリザーブ性能を語るために、ノンリニア式の大型パワーリザーブ表示をダイヤルに掲げたのも特徴だった。
このムーブメントを搭載した「110 Years リミテッドエディション」は 2014年のバーゼルワールドで大きな話題となり、それ以降オリスはカレンダー付のCal.111、GMT付きのCal.112、ビジネスカレンダー付のCal.113、24時間針付きのCal.114、そしてスケルトンのCa.115と、年を重ねるごとにバリエーションを増やしていった。それは優秀なベースムーブメントにモジュールを組み込むという、1982年以降のオリスが得意とした戦略でもあった。
こうしてオリスは、自社ムーブメントともに再び独自性を発揮するようになったのだ。
Cal.110系のムーブメントは、10日間というロングパワーリザーブを実現するため、ムーブメント径はやや大きめの34mmとなり、必然的にケース径も43mmや44mmと大型化。そのためスポーツモデルに搭載されることになった。また巻き上げも手巻き式だったため、ムーブメントの美しい姿を楽しめる一方で、パワーリザーブの後半になるとトルクの減少は避けられない。もちろんこれだけの長時間駆動であれば、時計が止まることはめったにないが、それでもオリスはさらなる進化を目指した。
約5年の開発期間を経て2020年にデビューしたCal.400は、現代的な実用性を意識した自動巻きムーブメントである。自動巻き式にするにあたっては、負担のかかるローター機構には摩擦を減らすスライドベアリングを採用。さらにデジタル時代に対応すべく、調速脱進機にシリコン製パーツを使うことで優れた耐磁性能を確保した。そして多様な時計のスタイルに対応すべく、ムーブメント径は30mmに縮小。しかしそれでも5日間という十分すぎるロングパワーリザーブを確保するために香箱はふたつ搭載している。しかも毎時28,800振動のハイビート仕様で、精度はクロノメーター級のー3~+5秒に収めている。非常にハイレベルなムーブメントでありながら、推奨するオーバーホール期間は10年で、保証も10年もついてくるというのも、ユーザーには嬉しいメリットだ。
そしてこのCal.400もまたオリスらしく進化し、スモールセコンド式のCal.401やアイコンであるポインターデイト式のCal.403が誕生。実用性を維持したまま様々なバリエーションを広げている。さらに2023年は、新生オリスムーブメントの10作目として手巻き式のポインターデイトムーブメントCal.473も誕生。手巻き式のためムーブメントの裏側にパワーリザーブ表示を加えるなど細やかな心配りを取り入れている。
オリスは良品適価を貫くが、その姿勢は自社製ムーブメントであっても変わらない。もちろん汎用ムーブメントモデルよりは高価になるが、それを補って余りあるほどにロングパワーリザーブなどのメリットは大きい。
自社ムーブメントを作ることは、あくまでも理想を貫くためである。オリスの理想とは、ユーザーに優れた時計を届けたい。それだけなのである。
取材・文:篠田哲生 / Report & Text:Tetsuo Shinoda
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※価格は2023年7月10日現在のものです。
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