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Gressive Impression時計ブランドとそのメセナ活動とは?第1回 リシャール・ミル

Part.1
クルマとその歴史が文化であるために
エンスージアストとしてのリシャール・ミル

リシャール・ミルが2002年の初回開催時からずっとサポートし続ける「ル・マン・クラシック」

リシャール・ミルが2002年の初回開催時からずっとサポートし続ける「ル・マン・クラシック」。コース上の看板もリシャール・ミル一色だ。

「エンスー」という言葉をご存知だろうか? イラストレーターの故・渡辺和博画伯が英語の「エンスージアスト(Enthusiast、熱中もしくは熱狂者の意)」という単語から生み出した造語で、生前の画伯は「ス」の上に思い切りアクセントをのせて、「あの人、エンスーだから!」「そこがエンスーの性(さが)で」などと、会話の端々に自然と挿し込んでいたものだ。


  具体的には、旧いクルマを無事に走らせることが人生の第一義になっていて、機械いじりに精を出して時や場所を選ばず油まみれになったり、海外出張や新婚旅行でスペアパーツをしこたま買い込んで税関で武勇伝を作ってしまうような、少しネジの外れた人々のことだ。おそらく、度を超えたクルマ好きが「クルマ・オタク」とカテゴライズされなかったのは、「エンスー」という言葉のおかげだと思う。


  ひるがえって本場・欧州の「カー・エンスージアスト」、エンジン動力の乗り物を趣味とする世界は、一部の奇特な人々というより、ホビーの中でもきわめて華麗な部類のひとつとして認知されている。ヒストリックカーは機械には違いないが、サラブレッドのように産元出自やエンジニアリング上の血統、そして競技車両だったならばレース歴が問われる。また、旧い量産の乗用車でも、車体登録と車検によって保安基準さえ満たせれば、ボートのように自由に、好きなところへ堂々と出かけていけるのは、大陸ならではの楽しみだ。

  そして欧州大陸のエンスー界で、今や極め尽くしたといっても過言でない時計ブランドが、リシャール・ミル(RICHARD MILLE)だ。時計メーカーのトップでヒストリックカー好きの社長やCEOは少なくないが、リシャール・ミル氏本人のエンスージアストぶりは完全に突き抜けているというか、一線を超えている。


  まず年間を通じて冠スポンサーとしてサポートするイベントの数が多い。それだけでなく、自らもイベントに積極的に参加して楽しむ・遊ぶという態度を鮮明に打ち出しているのだ。そしてリシャール・ミルが協賛したイベントは、確かに一流のミーティングとして盛り上がりを見せている。


  ところでヒストリックカーのイベントには大別して2種類ある。サーキットや公道を走る「動的な」イベントと、クルマを置いて愛でる「静的な」イベントである。前者はクローズドのサーキットで行われるレース・イベントと、レギュラリティ・ラリーというタイムの速さではなく走行ペースの正確さを競う公道ラリーが相当する。そして後者は、優雅な会場で粛々と行われるコンクール・デレガンス(Concours d’Elegance。その昔、貴族が馬車の設えの豪華さを競ったことに由来。現在はヒストリックカーのレストアの美しさを競う)や、実車は無論、ミニカーやパーツなどの販売が行われるスワップミート系のイベントがある。いずれのイベントも、リシャール・ミルがサポートすることで盛り上がるという上昇スパイラルが生まれているのだ。

  というのも、「ル・マン・クラシック」のようなサーキット・イベントではリシャール・ミル氏本人がローラT70 Mk.IIIを駆って24時間のセッションを、チームを組んで本当に走っている。また「シャンティイ・アート・アンド・エレガンス」のようなコンクール・デレガンスには、ポルシェ907のような希少かつ美しいスポーツプロトタイプを出展。その一方で、毎年のように珍車や歴史の片隅に埋もれたクルマが発掘され再注目を浴びる「レトロモビル」では、1台だけでも珍しい6輪のF1カーを2台、1976年式ティレルP34とマーチ2-4-0を並べるという「怪挙」を成し遂げた。

  これらはすべてフランスで行われるイベントだが、じつは昨年の2016年からリシャール・ミルは「鈴鹿サウンド・オブ・エンジン」という日本のヒストリック・イベントにも協賛している。そのきっかけは、リシャール・ミルの時計を、日常でもレースの時にも着けている「ファミリー」の現役F1ドライバーたちから、世界で一番面白いサーキットは鈴鹿かベルギーのスパだと、リシャール・ミル氏本人が常々聞かされていたためだ。かくして冠スポンサーとなっただけでなく、1975年式フェラーリ312Tとティレル006を日本に持ち込んで、実際に鈴鹿のイベントをエントラントとして楽しんでいたのだ。

  一方で鈴鹿は、リシャール・ミルととりわけ親交の深かった「ファミリー」のひとりであるF1ドライバー、故ジュール・ビアンキが2014年の日本GPで命を落とすことになった事故が起きたサーキットでもある。その点についてリシャール・ミルは以下のように語った。


「もちろん鈴鹿を走ってジュールのことを意識しない訳にはいきません。彼が入院したニースの病院にも私は見舞いに訪れましたしね。自分で実際に鈴鹿を走ってみて分かったのは、彼の事故が起きたのは11ターン目の直後、ちょうどダウンフォースが抜けて丘を下っていくところ。折悪しく雨が降っていて、フラッグがイエローからグリーンに変わるといったタイミングまで、本当に不運が重なった事故だと実感しました。


  でもこうした不幸があったからといって、それが鈴鹿でのイベントに二の足を踏む理由にはなりません。むしろ彼のことを想う機会にもなる。私が幼い頃に観戦した1967年のモナコGPでは、フェラーリのロレンツォ・バンディーニがクラッシュして焼死するというショッキングな事故がありました。モータースポーツにリスクは付きものであることは理解していますし、だからこそリスクをコントロールして速く走るためのエンジニアリングや、ドライバーの偉業は称賛の対象であり、いつの時代も挑戦であり続けているのだと思います」

  • 出走前のリシャール・ミル氏
  • 出走前のリシャール・ミル氏。模擬レースとはいえ、コースイン前はやはり緊張感を漂わせる。手元にRM 60-01を着けている点にも注目(鈴鹿サウンド・オブ・エンジン)。

  しかもリシャール・ミル氏は自分が積極的に走るだけではなく、どのイベントでも顧客やVIP、提携パートナーらを自らのブースに招待して、シャンパンやワイン、料理をふるまいながら楽しませることを忘れない。「ル・マン・クラシック」の時など、FIA会長のジャン・トッドが、同じ週末に開催されていた英国GPに出かけず、リシャール・ミルとブースで談笑していたくらいだ。

  • 2016年の「ル・マン・クラシック」
  • 2016年の「ル・マン・クラシック」で、RM 58-01ワールドタイマーのインスパイアとなったジャン・トッドとともにポーズ。

「昔のレースでは、ひとたびピットに戻ればライバル関係であっても、パドックはもっと自由な社交場のようでした。プロフェッショナル化が進むにつれて、パドックが猜疑心と秘密と契約書の飛び交う場所になってしまった現代のレースでは、残念ながら見出しにくいものです。『ル・マン・クラシック』の主催者であるピーター(・オート)と私が一緒になって、蘇らせたかったのは、そういう雰囲気なんです」

  彼はただ旧いクルマが好きなだけではなく、モータースポーツ黄金期に、タバコや飲料水など消費財の広告が支えていたサーキットやパドックの、楽天的でリラックスしつつ自由な空気を、限られた機会とはいえ現代に再び提供しようとしているのだ。それは自分自身の究極の遊びなのかもしれないが、エンスージアストだからこそ仲間を巻き込みながら思い描けるひとつの理想の形でもある。


  加えてそれは、とりもなさず、それぞれ時代において、当時の最先端のアイデアと技術を凝らし、最高のメカニズムをつぎ込まれたマシンを愛でながら、素晴らしい時間を過ごすことでもある。それこそ、ハイテクと洗練と複雑さの限りを究めた、リシャール・ミルが追及して止まず、彼が創り出す時計に直結するところなのだ。


  次回は年間カレンダーを通じて、リシャール・ミルがサポートするそれぞれのヒストリックカー・イベントの概要を紹介していこう。


取材・文、写真:南陽一浩 / Report & Text,Photos:Kazuhiro Nanyo


南陽一浩(なんよう・かずひろ)
自動車、メンズ・ファッション、旅行などの分野を取材するフリーランス・ライター歴21年。うち13年をフランスで過ごし、2014年から東京に拠点を戻しつつも、毎月のように渡航と取材に出かけている。近年の主な寄稿先は、『カー・マガジン』、『ザ・レイク日本版』、『メルセデス・マガジン』、『クレア・トラベラー』、仏『ムッシュー』誌など。執筆や撮影以外に、美術展のコーディネイトや、自動車や時計メーカーの日仏通訳も手がけている。



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