良い時計の条件には、歴史や伝統、デザインの良さ、高い品質が挙げられる。しかし、これらが備わった時計はどうしても高価になる傾向がある。
だからこそハミルトン(Hamilton)は不思議な存在に見えてくる。
創業は1892年。歴代アメリカ大統領や銀幕スターたちにも愛されてきた名門時計メーカーであり、非対称ウォッチ「ベンチュラ」など傑作も多いハミルトンだが、価格帯は驚くほど控えめだ。
なぜこの価格で高品質の時計を作ることができるのか? 理由は明快。ズバリ「時計が売れているから」である。
時計が売れる→生産本数が増える→一本当たりのコストが下がる→値ごろ感が出る→時計が売れる…。この夢のようなループが、ハミルトンの隆盛を支えているのである。
昨年(2011年)は同じスウォッチ グループに属する世界最大のムーブメント・メーカーETA社の協力を仰ぎ、共同で2つ目クロノグラフ・ムーブメントを製作したが、そのような"特別扱い"が許されるのもハミルトンだからかもしれない。
2012年のバーゼルワールドで話題となったのは、歴史、デザイン、品質の全てを備えた「カーキ ネイビー パイオニア 限定モデル(Khaki Navy Pioneer Limited)」。
1940年代に製作されたアメリカ海軍用マリンクロノメーターがベースとなっており、置き時計や腕時計としても使えるようになっている。その発想力も見事だが、驚くべきは20万円台後半という価格帯。もはや、商品の魅力に対して、価格が逆に追いついていないという不思議な状況になっている。
とことんライバル泣かせな時計メーカー。それが、今のハミルトンだ。