Watch Person Interview vol.54 最高の時計師でさえ手こずらせた 複雑さを極めたムーブメント
サブクラフト
ケース径:縦52.3×横40.1mm
ケース素材:チタニウム
防水性:3気圧
ストラップ:カーフ
ムーブメント:自動巻き、Cal.RJ2000-A、ジャンピングアワー+レトログラード
仕様:世界限定各99本
価格:3,500,000円(税抜 / チタンモデル)、3,600,000円(税抜 / ブラックPVDモデル)
“リニア・レトログラード”と呼ばれる独特の時刻表示機構を装備する新作『サブクラフト』。秒の表示は時計正面にある回転するディスクによって示される。
時刻の表示面とは反対側にリューズがあり、これによって時刻の修正やぜんまいの巻き上げが行える。スタイルは非常に独創的だが、操作性は既存の時計と変わらないのも大きな特徴。
『サブクラフト』の裏面には99本の限定製造であることを示すシリアルナンバーと共に、ロマン・ジェロームとデザイナーであるアラン・シルベスタインさんのコラボレーション作品であることを示す刻印が施されている。
外観のインパクトが強い分、内部のメカニズムを忘れがちだが、実はこれも力が注がれている。
「ムーブメントは『スペースクラフト』と共通ですが、もちろん改良しました。ひとつは表示のバーにスーパールミノバを追加したこと。さらに品質を高めるため、いくつかの部品を修正しています。品質の向上はブランドのミッション(使命)ですから。
そして、このムーブメントは他に類を見ないものです。見た目は非常にシンプルですが、現代で最も複雑なムーブメントのひとつであり、新しい領域を開拓するものです。
この時刻表示のインジケーターは1時から12時まで直線的に移動し、12時を示した後、1時にジャンプして戻ります。この作動を成功させるために最高の時計師とコラボレーションする必要がありました。そこで選んだのがジュネーブのムーブメント開発会社アジェノーの社主であり時計師でもあるジャン=マルク・ヴィダレッシュさん。その彼をもってしても、ムーブメントを仕上げるのに2年半かかりました。
ヴィダレッシュさんも、“この開発は過去15年の中で、もっとも難しいプロジェクトだった”と言うほどです」(エムシュさん)
「しかも、これほどの複雑な機構を搭載しつつ、ケースは出来る限り薄くというのがマニュエルのリクエストだったんだよ」(シルベスタインさん)
「そう、ムーブメントだけでなくケースも大きな挑戦でした。『サブクラフト』は直線がひとつも存在しません。おそらく5年前の技術では実現不可能だったでしょう。特にラグとケースの接続部分が非常に複雑です。
私はサプライヤーを探しましたが、スイスの99%のケース・メーカーは不可能との回答でした。ただ、ある一社だけが我々の要望を受け入れたのです。そこで彼らと作り上げたのですが、とにかく大変でした。
しかしその結果、複雑な構造を持ちながら、見た目はシンプル極まりない時計に仕上がりました。何よりシンプルに仕上げることが、最大の挑戦でした。
その製造の難しさのため、このモデルはそれぞれ全世界で99本の限定販売なんです」(エムシュさん)
「マニュエルはシンプルなものが好きだけど、それこそが難しい。シンプルにすればするほどディテールに気を配らないといけないからね。でも、この作品はまさに完璧さの勝利。彼との共同作業によって、これが完成して本当に良かった。さまざまな壁を乗り越え、問題を解決してここまできたからね」(シルベスタインさん)
「今回、我々はこのモデルをバーゼルで発表し、日本でローンチ・イベントを開きました。
ここからがスタートです。私は日本のマーケットに集中したい。なぜならこの繊細さに対して日本人は理解力があるとわかっているから、あとは時計の文化や複雑さ、そして可愛いらしさをアピールしたい。アランさんのデザインは、これらの要素を、とても深い部分で結びつける力がありますからね」(エムシュさん)
取材・文:名畑政治 / Report&Text:Masaharu Nabata
写真:堀内僚太郎 / Photo:Ryotaro Horiuchi
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