日本の時計の美しさ
明治12年の創業以来、日本の時計史とともに歩んできた天賞堂が、“MADE IN JAPAN”の美しさを表現する手段として行き着いたのが、「漆」です。
“感性の塗料” “癒しの塗料”とも呼ばれる漆は、伝統的な意匠をみずみずしい色彩で艶やかに際立たせ、時を経るにつれて、鮮やかさと味わいを深めていきます。そんな気品あふれる漆文字盤のほのかな変化に、自身の人生の移ろいを重ねてみるのも一興。麗しき日本の腕時計「J-FACE」が、一瞬も永遠も、情緒豊かに刻み続けます。
J-FACEを作り上げた思い
19世紀、日本の工芸品や浮世絵が西洋で流行し、“ジャポニズム”と呼ばれて持てはやされました。
漆文字盤を使用したスイスメイドの高級時計が生まれたのも、その流れを受けてのことだと思います。ただ、そのほとんどは画一的な和模様が施された、いわば“西洋から見たオリエンタリズム”にすぎません。天賞堂オリジナルウォッチラインは、“時計屋が欲しくなる時計”が大前提。私たちは「日本人として漆そのものの美しさを引き出すべきだ」と考え、別のアプローチを模索しました。
世界的に有名な輪島の北村工房・北村辰夫氏との出会いもあり、構想から5年、日本の美しさを追求したJ-FACEが2010年に完成します。工芸表現を載せた文字盤で初めて、アップライトインデックスを備えることにも成功しました。
それから7年、2020年の東京五輪開催を見据えて日本伝統文化の発信を強化すべく、私たちは再び北村工房を訪ね、天賞堂の想いをぶつけました。
第一弾のJ-FACEで用いた「蒔絵」に加え、今回の第二弾では世界初の「沈金」による文字盤にも挑みました。職人気質の凄まじいこだわりと、私たちの熱い想いを込めたフルコレクションが、ここに完成したことを誇りに思います。
輪島塗の古典技法を復活させつつ超絶技巧を駆使して
独創的な漆工作品を製作する「北村工房」
漆芸は日本を代表する伝統文化のひとつ。9000年前の縄文時代早期には、すでに装身具や食器などに使用され、地域ごとに発展してきました。能登半島はその漆文化を脈々と継承する希少なエリアで、なかでも輪島塗の名声は江戸時代に急速に全国へ浸透。1977年には漆器産地で唯一、重要無形文化財に指定され、木製漆器では現在日本一の生産量を誇ります。
そんな輪島塗の技術にとどまることなく、明治以降に失われた漆の古典技法を復活させながら、独創的
な漆工作品を製作しているのが輪島の北村工房・北村辰夫氏です。
江戸時代の印籠作りに使われた伝統的な漆技法
「切合口」を応用してアップライドインデックスをセット
J-FACE第一弾で、初めて腕時計の漆文字盤に挑んだ際、「時計本来の機能を維持するため、アップライドインデックスは必須です。貼るのではなく、漆文字盤の穴に足を通して固定したい」という天賞堂の要望に対して、北村氏は“切合口”という伝統技法を応用しました。
「印籠の蓋と身の合わせ目で用いられる漆技法です。文字盤素材に漆を焼き付け、コンマ4mmの穴をあけるのですが、極めて難易度が高い精緻な技法のため、歩留まりは2割。でも、おかげでインデックスがぴったりとセットできるようになりました」(北村氏)
文字盤をA4サイズに拡大しても粗が見えない
レベルでないと見る人に感動は呼び起こせない
代表的な漆の装飾技法に「沈金」と「蒔絵」があります。沈金は塗面にノミで文様を彫り、漆を擦り込んで金箔・金粉を付着させます。堅牢な輪島塗だからこそ江戸時代に華開いた技法で、漆黒に浮かぶ優美で繊細な意匠が特徴です。
蒔絵は筆を用いて漆で文様を描き、金粉などを蒔いて付着させます。輪島では明治中期から高度に発達し、華麗な世界観を作り上げました。
北村工房にはそれぞれの専門家たちが在籍。これまで沈金文字盤が存在しなかった理由を聞くと、「単に難しいから」と北村氏。「でも私たちは“世界初”にこだわったのではありません。難度の高さに挑みたかったのです」描いた図案の候補は20以上。決定までに数ヵ月を要しました。パソコンを使わず手書きで行うのは「人間の能力の方が優れているから」と断言します。
沈金文字盤が難しい理由は、やはりサイズ。蒔絵にしても本来は眺めるものですが、時計の文字盤はじっと見るもの。場合によってはルーペで拡大します。
「たしかに密度の濃い仕事です。直径4cm足らずの文字盤をA4サイズに拡大しても、粗が出てはいけない。品格を備え、見る方が感動するレベルでないと世に出せません」
新 J-FACE
SSモデル / 価格 1,000,000円(税抜)
■ 技法 ― 沈金
HAKUTOWASHI (限定2本)
クチバシには金箔、顔の毛にはプラチナ鈖を使用し 目は白蝶貝を貼り、黒目は黒漆で描き沈金で縁取っています。
TORA (限定3本)
ひげは線で彫り顔の毛を点描でリアルに表現。黒塗りベースのため、模様を黒抜きにして縞模様を表現しています。
FUKURO (限定2本)
獲物を木の上から狙っているような目線をデザインした。大きな目と毛の奥行きの対比でよりリアルな表現を描き目には夜光貝を使用しています。
KACHO (限定生産)
朱漆をベースに桜に小鳥が止まっている様子を沈金ノミで彫り、彫った部分に金箔やプラチナ鈖を入れ、模様に色づけています。
■ 技法 ― 蒔絵
J-FACE (沈金・蒔絵) 共通スペック
ケース径:39mm
ケース素材:SS
防水性:日常生活防水
ストラップ:クロコダイル
ムーブメント:自動巻き、Cal.NH35(SII社製)、毎時21,600振動、約41時間パワーリザーブ、24石
仕様:サファイアガラス風防(UVカットコーティング)
価格:1,000,000円(税抜)
※1つ1つ手作業で製作しているため、生産本数に限りがあり、個体差がございます。
※記載の価格は、2018年10月25日現在の税込価格です。