キーマンインタビューで見えてきた
「MR-G FROGMAN」が、最強ダイバーズである理由。


 1993年に誕生した、G-SHOCK初のダイバーズウォッチ「DW-6300」。 のちにフロッグマンと呼ばれるこの傑作が、G-SHOCKの最上位シリーズであるMR-Gとなった。 はたしてこの「MRG-BF1000R」とは、どういう個性を持つ時計なのか? 初代フロッグマンのデザイナーであり、最新フロッグマンの商品企画を担当したキーマンである カシオ計算機の石坂真吾さんに、その全貌を伺った。


プロフィール:
石坂真吾(カシオ計算機 羽村技術センター 時計BU 商品企画部)/1982年にカシオ計算機に入社。デザイナーとしてG-SHOCKを担当し、初代フロッグマンのデザインを手掛ける。その後はBABY-Gなどを担当し、15年前から商品企画部に。今回、フロッグマンのMR-G化という難題に挑んだ。


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初代フロッグマン、誕生秘話


―まずは、初代フロッグマンが誕生した背景を教えてください。


「1990年ごろから、G-SHOCKの売り上げが伸び始めました。そこでG-SHOCKの商品をもっと拡大していこうと考えた。そこで持ち上がったのが、G-SHOCKのダイバーズウォッチです。ただしダイバーズウォッチには、すでに確立されたデザインがある。その制約のなかでG-SHOCKらしさをどう表現するか、そこを考えました。フロッグマンという愛称は、アメリカの特殊潜水士の愛称から命名しました」


1993年に発売された初代フロッグマン「DW-6300」 1993年に発売された初代フロッグマン「DW-6300」

1993年に発売された初代フロッグマン「DW-6300」。ISOのダイバーズウォッチ規格に準拠し、防水性能は200m。当時の販売価格は18,000円だった。



―フロッグマンの特徴といえば、なんといっても左側にオフセットされた左右非対称のデザインです。これはどこから生まれたのですか?


「G-SHOCKは耐衝撃性能のために、様々な構造を研究してきました。しかし私が初代フロッグマンをデザインしていた頃はそこまで技術が進んでなくて、ボタンは完全にガードしないという時代だった。ライト点灯のボタンやクロノグラフのスタート/ストップは、右側のボタンでやるのですが、ここをがっちりとガードすると、ボタンが引っ込んで押しにくくなったり、ボタン周りが大きくなってしまい、手首に食い込んで痛い。しかしガードがないと壊れてしまう……。それで、時計の中心を左にずらしてみたのです。こうするとガードをつけたボタンがある程度飛び出しても、ボタンに直接当たりにくい。操作性と耐衝撃性をうまく兼ね備えたデザインになりました」


―このデザインを見せたときの、周囲の反応はいかがでしたか?


「うーん、あまり覚えていないなぁ。ってことは、すんなり通ったのでしょうね。むしろオフセットすると外見も特徴が出るので、面白いねという反応だったと思います。しかもオフセットにしても耐衝撃性能の不具合もなかったので、デザイン決定から製品化まで、滞りなく進んだ印象です。ISOが定めるダイバーズウォッチの規格に準拠していますが、そもそも当時のG-SHOCKは、メタルのインナーケースにスクリューバックを採用していたので防水性は非常に高かった。それにデジタル表示の視認性に関しても、文字サイズ含め問題ありませんでしたしね」


インタビューを受ける石坂さん。自分がデザインしたフロッグマンが、そのスタイルを守りながら30周年を迎えたことを、とても喜んでいた。

インタビューを受ける石坂さん。自分がデザインしたフロッグマンが、そのスタイルを守りながら30周年を迎えたことを、とても喜んでいた。


―フロッグマンといえば、裏蓋のカエルのイラストも印象的ですよね。


「当初はダイバーズウォッチなので、屈強な潜水特殊部隊のダイバーをイメージしたイラストを考えていました。しかし1案だけじゃつまらないので、ちょっとしたジョークのつもりで、器具をつけて潜水するカエルのイラストも一緒に提出したら、そっちの方が選ばれちゃったんです(笑)。でもそれが結果として〇〇マンシリーズという形でペットネームの先駆けになったのは嬉しいですね」


初代「DW-6300」から最新の「MRG-BF1000R」へと受け継がれるカエルのイラスト。こういった遊び心もG-SHOCKの魅力である。

初代「DW-6300」から最新の「MRG-BF1000R」へと受け継がれるカエルのイラスト。こういった遊び心もG-SHOCKの魅力である。


―その後石坂さんは、Beby-Gのデザイン担当になりますが、フロッグマンは大人気モデルとなり、どんどん進化していきました。デザインの生みの親としてその様子をどう見ていましたか?


「ここまで人気シリーズになるとは思っていませんでしたが、手前味噌ではありますが、なかなかカッコいい時計になったなとは思っていました。だから機能はどんどん進化していく中でも変わらない基本スタイルを最初に作れたっていうのは誇らしい。オフセットのデザインもカエルのイラストもそうですが、長く続いていくスタイルを作る経験は狙ってできることないですからね」


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困難を極めたMR-Gへの道筋


―石坂さんは、15年ほど前から商品企画部に所属しています。まずはG-SHOCKにおいて、「MR-G」とはどういうものと定義しているのでしょうか?


「G-SHOCKの最高峰ブランドであり、リアリティがあり、風格があり、本物である。G-SHOCKの最上位であるからには、耐衝撃性能だけでなく、そのクラスに見合う質感を両立させなくてはいけません。さらにはBluetooth®搭載電波ソーラーなどの技術的な先進性を求める一方で、職人的な研磨のようにクラフト的な要素を合わせたときに生まれる価値観も重視しています。さらには機能性を表現するようなデザインも必要。それらを組み合わせた形で、価値を作り出しています」


―MR-Gはかなり特別な存在ですが、いつかはフロッグマンをMR-Gで出したいというムードはあったのですか?


「そもそもMR-Gは、B2000というクロノグラフのベースモデルが中核にあります。そしてその領域を拡大していきたいと考えていました。その中でまずはマスターピースの最高峰として、2022年にB5000をデビューさせました。このモデルは非常にシンプルでベーシックですよね。そこで次の手として、対極にあるギアっぽいモデルであるフロッグマンをMR-Gにできないかという話になりました」


ダイナミックな造形のMRG-BF1000R

ダイナミックな造形のMRG-BF1000R。ベゼル部分をガードするのがプロテクターだ。美しいエッジは、マルチパーツ構造だからこそ可能になったものだ。


MR-Gの中核をなすB2000は、4つのビスでケースの強度と気密を高めている

MR-Gの中核をなすB2000などは、4つのビスでケースの強度と気密を高めている。
※写真のモデルはG2000です。


―MRG-BF1000Rは、B5000と同じくケースがマルチパーツ構造になっています。ということは、B5000の成功はかなり大きかった?


「確かにB5000によって実現したケースのマルチパーツ化によって、進むべき方向性が見えたのは事実ですね。しかしケースの形状も違いますし、フロッグマンはダイバーズウォッチですから、構造的には全く異なります。特にマルチパーツ×メタルケース×防水という組み合わせは非常に難易度が高いんです。B2000を見ていただくとわかりやすいのですが、このベゼルの四隅をビスでがっちり固定することで、ケースの気密性を高めています。しかしフロッグマンは左右非対称ですので、この方法が使えないのです」


一方のMRG-BF1000Rは、ケースがオフセットしているため、得意の構造が使えず、気密を高めるのに苦心した

一方のMRG-BF1000Rは、ケースがオフセットしているため、得意の構造が使えず、気密を高めるのに苦心した。


―なるほど。たしかにMRG-BF1000Rはケースに2つのビスでだけですね。これでどうやって防水性能を高めているのですか?


「技術的なブレークスルーは、航空宇宙産業に携わるメーカーと協力した特殊なレーザー溶接技術にありました。フロッグマンは構造がかなり特殊で、パーツの精度も高いレベルを要求されます。ダイバーズウォッチですから、万が一の状況になってはいけないので、強度と精度の高い加工技術が必要でした。ダイバーズウォッチの正確性や信頼性をクリアするうえで、このオフセットのデザインが難易度をあげることになりました」


樹脂で作られていたフロッグマンをMR-Gにするにあたって、高級感と美しい質感を引き出すため、B5000と同じように、ケースをマルチパーツ化した

樹脂で作られていたフロッグマンをMR-Gにするにあたって、高級感と美しい質感を引き出すため、B5000と同じように、ケースをマルチパーツ化した。素材は軽くて強いチタンで、DLCと深層硬化処理を加えている。構成される70以上のパーツは、すべて丁寧に仕上げられており、力強くて美しい表情を作り出す。


―外装パーツは70以上で構成されていますし、完璧な気密を保つのは相当苦労したというのはわかります。なにせ、石坂さんが初代フロッグマンをデザインしたときには、まさかメタルパーツで作ることなんて想定していませんものね。


「初代の外装はウレタンですし、金型を使った一体成型なので、複雑な形状でも実現できます。しかしそれをフルメタルで作ろうとすると大騒ぎになる(笑)。元々そのつもりでデザインしていませんからね。だからフロッグマンのフルメタル化自体が、すでに非常識なことなのです。フェイスを保護するプロテクターも苦労しました。これも初代からずっと続いているスタイルで、潜水艦のハッチをイメージしてデザインしました。ここをメタルで作るのが難しくて、チタンの塊を複雑な形に切削しています。しかもプロテクターは耐衝撃構造の一部になっており、触れる分には動きませんが、ベゼルとの間に若干の隙間があって、強い衝撃を受けた際には少し動いて衝撃を吸収する。動きながらも固定しなきゃいけないので、とにかく構造には苦労しました」


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MR-G フロッグマンはなぜ高価なのか?


―結果として、MRG-BF1000Rは税込み価格で594,000円となりました。


「高度な製造工程が必要な部品が多いので、どうしてもコストが高くなる。さらにパーツにはDLCと深層硬化処理を施しますが、ケースを組んだ状態で丸ごとかけるわけじゃなくて、パーツ1個1個やる。当然パーツが増えれば工程数も増えるので、コストがかかることになる。当初はここまで高価な時計を想定していませんでした。しかしMR-Gですから価格を下げるために何かを妥協するという方向にはいきたくなかった。もちろん価格設定は悩みましたよ。しかしG-SHOCKは、いつだってチャレンジするブランドですし、価値に見合った価格であれば、市場から受け入れられるというのはわかっていましたから」


快適さやメンテナンスのしやすさといった利便性とダイバーズウォッチに求められる強靭さを、高いレベルで両立する。ラグ裏のボタンを押しながらサイドのピンを外すと、ストラップが外れる。


―G-SHOCKがタフであることは当然ですし、MR-Gのクオリティが高いのも知られています。しかし高級時計である以上、感性に訴えかける要素も必要になりますよね。


「細かいところですが、リューズトップのMR-Gロゴが必ず水平になるようにしています。このモデルのリューズは、単純なねじ込み構造ではなく、リューズ本体との間に緩衝体が挟まっており、締め切った状態にして水平になるいちで、リューズのトップ部分を圧入している。だからリューズをねじ込んだ際に、ロゴが必ず水平になるのです。またメンテナンス性を高めるため、デュラソフト製のストラップは簡単に着脱できるようにしていますが、ここも強度という意味では外れにくく、でも外す操作は簡単にしたいという、相反する要素を兼ね備えなくてはいけません。プッシュボタンを押してピンを抜くとストラップが外れますが、この構造も苦労しました。さらには、肌にあたる部分は柔らかくしますが、時計と繋がる部分はやや硬くすることで、着用感の良さと強度を両立させています。そういった小さなこだわりの積み重ねが、高級時計にふさわしい満足感につながると思います」


ケースサイズは縦56×横49.7×厚さ18.6mmとかなりボリューム感がある。しかしチタンケースであるため、軽くて着用感は良好。むしろこのサイズ感がツールウォッチらしい迫力を生み出し、夏の腕元を華やがせる。


―開発期間も5~6年もかかったそうですが、そういった点も含めてかなり慎重かつ丁寧に作り上げたということですね。


「構造の問題でつまずいて、そこをクリアしないと先に進めなかった。だからかなり時間がかかってしまったのも事実です。しかし結果として、G-SHOCKの40周年とフロッグマンの30周年のダブルアニバーサリーに発売できたのは幸運でした。売れ行きも好調で、まずは一安心です。価格もですが、こういった独特のスタイルを受け入れてもらえたのは嬉しいことです。30年前に私が手がけたデザインが、30周年の節目にMR-Gという形で世に出せたのは感慨深い。本当に幸せなことだと思います」

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 ISO規格に準拠したダイバーズウォッチとして、1993年に生まれた初代フロッグマンは、その歴史を継承しながら、最高峰モデルへと進化を遂げた。MRG-BF1000Rは、そのアイコニックなデザインゆえに、高度な審美性と高度な防水性を追求することは、これまでにない高難度のチャレンジとなった。しかも機能性は完璧であり、Bluetooth®搭載電波ソーラーやスマートフォンリンク使用時の約300都市のワールドタイム機能に加えて、アナログ針で潜水時間と水面休息時間を正転・逆転する針で表示するダイブモードやダイビングスポットの潮汐情報と現地時刻を表示するタイドグラフモードも搭載。フルアナログで表示することで視認性を高めるなど、ツールウォッチとしての実力も極めてハイレベルだ。

 高度な技術と審美性が融合した「MR-G FROGMAN」は、まさに最強ダイバーズといって過言ではないだろう。



  • MR-G FROGMAN
    MRG-BF1000R-1AJR

    ケースサイズ:56.0×49.7mm
    ケース厚:18.6mm
    ケース素材:チタン(DLC処理+深層硬化処理)
    ストラップ:デュラソフトバンド(フッ素ラバー)
    防水性:200m(ISO200m潜水用防水)
    使用電源:タフソーラー(ソーラー充電システム)、パワーセービング状態の場合約29ヵ月
    仕様:ダイビング機能、ストップウオッチ、パワーセービング機能、モバイルリンク機能、Bluetooth®接続、耐衝撃構造(ショックレジスト)、耐磁時計(JIS1種)、電波時計 日本・北米・ヨーロッパ・中国地域対応 MULTIBAND6、自動時刻修正、簡単時計設定、ワールドタイム約300都市、ダイビングログ、タイドグラフ設定(世界約3300ポイント)、時計ステータス表示、セルフチェック、携帯電話探索、Premium Production Line生産証明書
    価格:594,000円(税込)


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ファン待望「イエロー」カラーの限定モデルが登場



  • MR-G FROGMAN
    MRG-BF1000E-1A9JR
    世界限定700本 シリアルナンバー入り

    ケースサイズ:56.0×49.7mm
    ケース厚:18.6mm
    ケース素材:チタン(DLC処理+深層硬化処理)
    ストラップ:デュラソフトバンド(フッ素ラバー)
    防水性:200m(ISO200m潜水用防水)
    使用電源:タフソーラー(ソーラー充電システム)、パワーセービング状態の場合約29ヵ月
    仕様:ダイビング機能、ストップウオッチ、パワーセービング機能、モバイルリンク機能、Bluetooth®接続、耐衝撃構造(ショックレジスト)、耐磁時計(JIS1種)、電波時計 日本・北米・ヨーロッパ・中国地域対応 MULTIBAND6、自動時刻修正、簡単時計設定、ワールドタイム約300都市、ダイビングログ、タイドグラフ設定(世界約3300ポイント)、時計ステータス表示、セルフチェック、携帯電話探索、Premium Production Line生産証明書
    付属品:交換用チタンバンド、バンド取付工具
    価格:770,000円(税込)



取材・文 / text:篠田 哲生 / Tetsuo Shinoda
写真 / Photos:江藤 義典 / Yoshinori Eto



INFORMATION

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カシオ計算機株式会社
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TEL: 0120-088925