さる時計店のオーナーを取材した際、その人は「新作発表のスパンが短すぎる」との苦言を呈していた。事実、時計の生産と新作の開発を同時に行うというのは、どのメーカーにとってもかなり難儀なことだろう。
それならば毎年の新作ラッシュを目指さずに、しっかりと時間をかけて良作時計を開発するメーカーがあっても不思議ではない。話題性は減るかもしれないが、ユーザーに対する誠実な態度として評価できるだろう。
正直にいうと、今年(2012年)のボーム&メルシエ(BAUME&MERCIER)の新作は、ほとんどが昨年モデルのエクステンションである。
しかしそれは2011年が大豊作だったから。この年、ボーム&メルシエはロゴマークを刷新し、さらに主軸コレクションである「ケープランド(CAPELAND)」と「ハンプトン(HAMPTON)」のリニューアルを敢行。事実、これらの時計たちはかなり評判がよく、日本市場でも相当数が売れたそうだ。
それゆえに新作は昨年モデルのエクステンションではあるが、それでも十分に魅力的だ。「ケープランド クロノグラフ(CAPELAND CHRONOGRAPH)」では、44o径モデルが追加され、さらにムーブメントもETA製からラ・ジュー・ペレ製へと変更された。
さらにエクスクルーシブ・モデルと呼ばれる「ケープランド フライバック クロノグラフ(CAPELAND FLYBACK CHRONOGRAPH)」では、ブラック×マロンの文字盤色を追加している。
ユーザーフレンドリーな熟成としては、メタルブレスレット・モデルが追加され、高温多湿な日本の夏でも快適に着けることができるようになった。
ボーム&メルシエはSIHHに参加する時計メーカーの中では、最もこなれたプライスに抑えている。だからだろうか、ユーザーに寄り添おうという意識を強く感じることができる。
新作を多作するより既存モデルの熟成を進めるというのは、彼らにとっては至極まっとうな戦略なのである。