既成のあり方にとらわれず、新素材や斬新なデザインを用いた個性的なウォッチメイキングを得意とするラドー（RADO）。2009年もコレクションの新旧を問わず数多くニューモデルを投入してきたが、中でも一押ししたいのが「r5.5」という新しいコレクションの面々だ。以前からラドーと親交の深かった世界的に高名なプロダクトデザイナー、ジャスパー・モリソン(Jasper Morrison)氏がデザインしたコレクションで、これまでに手がけたラドーの時計ボックスや「セラミカ クロノグラフ」の限定版に次ぐ、同社とのコラボレーション第三弾となる。スクエアケースの角に55度の曲線(アール)をつけた通称“ジャスパー・モリソンシェイプ”は、無意識のうちに人間に心地よさをもたらす秀逸な形態。ブレス部分も手首に沿う優しいラインが熟慮されており、細部にわたって全く妥協が感じられない、まさに普通を超えた　“スーパーノーマル”ウォッチに仕上がっている。
　また毎年本数限定で展開されるバーゼル・スペシャルとしては、今年は「ラドー トゥルー」から新モデルが登場。マットな質感のプラチナカラーセラミックスはラドーだけのオリジナルで、デザインとマテリアルの巧みな扱い方には、やはり群を抜く感がある。
　機械式ムーブメントだけに固執するのではなく、時にはクォーツムーブメントを用いて自在にデザインコンシャスな高級時計をつくり出すラドー。徹頭徹尾、耐傷性や軽やかな装着感こそが＜新のラグジュアリーウォッチ＞だと位置づける同社は、あまたあるウォッチメーカーの中でも、極めて創造性に富んだブランドであると断言できるだろう。

　「Thinking man’s chair」など数多くの著名な作品を手がけた鬼才プロダクトデザイナー、ジャスパー・モリソン氏とラドー社との共通項。それは、＜プロダクトがヒーロー＞だと考えていることである。ゆえに今回実現した両者のコラボレーションでは、あえてジャスパー氏のシグニチャーは時計本体のどこにも入らないという徹底ぶり。とはいえ正方形の角を落とした優しいラインは紛れもなくジャスパー氏のそれであり、同時にラドーデザインに見事に昇華されているのだ。画像の3針+デイト表示のタイプ3型のほか、デイトなしの3針、2カウンタークロノグラフの4型が揃い、インデックスのパターンも多彩。当モデルのアラビックインデックスは、計測器からインスパイアを得た潔いミニマルデザインで、心地いいアールを描くケースフォルムとも絶妙にマッチしている。

文：越知絵里香　写真：板津亮

※表記は2009年6月現在のものになります。