Gressive Premium 　グレッシブ キネマ倶楽部 第1回 英国MI6秘密諜報部員007 Part.1(02)

　 ところが6代目ダニエル・クレイグの時代に入ると、秘密兵器としての役割は影を潜め、時間計測機器として時計は本来の姿に立ち返る。これは映画自体が原点回帰を目指し、原作で描写された冷静沈着なプロフェッショナル＝ボンド像に立ち返った結果である。

　 第21作『007 カジノ・ロワイヤル（Casino Royale）』（2006年公開）ではシーマスターは2モデル登場。冒頭のマダガスカルからバハマ・ナッソーまではラバーストラップ仕様の「シーマスター プラネットオーシャン」、中盤モンテネグロへ向かう列車のシーンからエンドマークまではブレスレット仕様の「シーマスター プロダイバーズ」を装着。おそらく冒頭シーンでは激しいアクションが展開されるので、より精悍なスペックのプラネットオーシャンを使用したと推測する。

　 次回作『007 慰めの報酬（Quantum of Solace）』（2008年公開）でも「シーマスター プラネットオーシャン」を採用したのは、映画後半のメイン舞台が乾燥し荒涼とした砂漠地帯だからだろうか。

　 以降、第23作『007 スカイフォール（Skyfall）』（2012年）では引き続き前述モデルのほか、ドレッシーな「シーマスター アクアテラ」を着用し、MI6制式採用時計オメガ シーマスターの伝統は第24作『007 スペクター（Spectre）』（2015年）へと受け継がれていく。

　 そもそも第17作以降の007シリーズにオメガが採用された理由は、第17作『007 ゴールデンアイ』より第21作『007 カジノ・ロワイヤル』まで計5作品の衣装を担当した、オスカー受賞経験もあるデザイナー、リンディ・ヘミングの提言であった。

「彼女が二十代の頃、陸軍や海軍に所属していた同年輩の知人等が全員オメガの愛用者でした。またボンドは元々海軍中佐という設定ですし、想定されるあらゆる危機的状況にも対応可能な時計というのが、シーマスターを推挙した彼女の理由となっています」（月刊『グッズプレス誌』2013年1月号より）

　 元々、第2次世界大戦中に英国防省へ納品された全時計の50％以上を占め、1967年には第2世代の「シーマスター 300」も同国防省へ納品したオメガの歴史があるからこその、映画への採用である。

　 奇しくも第25作目となる新作『Bond 25（仮題）』発表の同月の7月5日に、ロンドン・テムズ川畔の国立美術館、テート・ブリテンで開催された、限定版新作「シーマスター ダイバー 300 “コマンダー” ウォッチ リミテッド エディション」。

　 このベースモデルは通常ブラックダイアル×ベゼルとブルーダイアル×ベゼルの展開だが、今回は英国王立海軍のシンボルカラーであるホワイト、ブルー、レッドを使用（ダイアル、インデックス、時分針、ベゼル、秒針に配色）。特に秒針のカウンターウェイトにあしらった007の公式ロゴや、シースルーケースバックから覗くローターをジェームズ・ボンドの海軍階級である中佐の階級章にデザインするなど、ボンドカラーが随所に散りばめられている。特にブルー、レッド、グレーのストライプで構成されるNATOストラップを付属するなどミリタリーテイストも考慮した点を評価したい。

　 世界限定数は7,007本。これは世代を超えて世界に存在するボンドマニア要注目のモデルで、各国のマニア間では争奪戦のミッションが展開中と想像される。