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Swiss Watch Confidential Vol.26 ネガティブな数字の先にあるもの

ネガティブな数字の先にあるもの

「バーゼルワールド」の総括レポートに取り上げられている、主催者やスイス時計ブランドの主要なリーダーたちのコメントに目を通してみると、バーゼルワールドの重要性を大いに評価するものばかりで、ビジネスに対してもポジティブな見解がほとんどだ。時計の分野で全世界の6割の市場を占めるスイスだから、ビジネスの場としてこのバーゼルワールドがきわめて重要な役割を演じているのは、改めて言うまでもない。攻めの姿勢で成功している、いわゆる勝ち組の時計メーカーなら、なおさらそう考えているはずだ。


  現状を知るには、スイス時計協会が発表する統計を参照するのが近道だ。2016年を総括したレポートがある。スイス時計の輸出は、2015年から今年(2017年)2月までおよそ20カ月も連続して下降線をたどり、ようやく若干ながら上向きに転じて明るい兆しが見えたのが今年の3月だ。「苦難の年」と称される2016年の輸出総額の実績は、輸出価格にして194億スイスフラン。2015年と比べて9.9%の減少だ。スイス時計協会はこの結果を「2011年のレベルに逆戻りし、2011年から2014年に達成した15%増も終わった」と述べ、厳しい現実への認識を示している。グラフで確認すると、2011年から右肩上がりで伸びた輸出額が2014年の総額222億スイスフランを頂点として下がり始め、2015年はその3.3%減の215億スイスフランに後退、そして先に述べたように、2016年はさらに前年比9.9%減の194億スイスフランになったことがわかる。


  主要マーケットの輸出額変動を上位から見ると、マイナスは、香港25.1%の大幅減を筆頭に、アメリカ合衆国9.1%減、中国3.3%減、日本3.3%減、逆にプラスはイギリスの3.7%増である(いずれも前年比)。ここ数年の全体の下落に最も影響を及ぼしている主要因は、間違いなく香港マーケット。その急落がとまらない。関連情報では、中国経済の減速によるビジネスへの影響、輸出入そのものの減少、観光客の激減や小売り不振など、マーケットに活力がない要因がいくつも見つかり、見通しは不透明だ。著名な高級時計ブランドが多数出展するアジア版SIHH「WATCHES & WONDERS」は2013年から香港で催されてきたが、2015年の第3回(スイス時計事情第23回参照)を最後に中止になったのも、こうした状況が少なからず影響しているのだろう。

構成・文:菅原 茂 / Composition&Text:Shigeru Sugawara


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